最後に¶
以上に示してきたように、多くのSDPD法ソフトウェアが流通し、誰もが使用できるようになっている。しかし、ソフトウェアを利用できることと、実際に解けることには大きな隔たりがある。実際の未知構造解析にルーチンで使えるのだろうか?それを検証するために、Le BailとCranswickはSDPDラウンドロビン・テストを3回開催した(Le Bail博士のウェブページ参照)。彼らは解くべき粉末回折データ数種をウェブ上で公開して、一般からその解析結果を募集した。2008年が3度目で最後のラウンドロビン・テストであったが、その結論はSDPD法がまだルーチンとなっていないというものであった( [Le_Bail09] )。その後も、より高度なソフトウェアが現れ、より複雑な構造が事前の情報なしに粉末データから解けるようになってきている。例えば2回目のラウンドロビン・テストの試料2の回折データをEXPO2014で処理すると、ほぼマウスクリックのみ(化学組成だけタイプが必要)で初期構造が求まった。一方、そう簡単に解けない場合には、他の方法による構造情報や結晶化学的知識を総動員する必要があり、この状況自体は以前からほとんど変わっていない。本総説では、これを解決する1つの方法として、NMRが有益な構造情報を与えることを示した。本解説が、幸運にも未知構造相を得た方が、自ら構造を解明する醍醐味を味わうことに貢献できれば幸いである。
ここで取り上げたプログラムはよく整備されていて、PCのOSを問わずに稼働し、大学等の教育・研究機関には無償なものに限った。それらの具体的な使用方法はそれらのマニュアルを参考にされたい。また、それらのプログラムを連携させた利用方法等については著者のウェブページで公開しているので参考にされたい。これ以外にもX線装置メーカーが独自に開発したソフト(PDXL, TOPASなど)が装置に組み込まれている場合があるが、これらについては割愛した。装置付属のマニュアルを参照されたい。また、粉末中性子回折による解析についても割愛したが、角度分散中性子回折データであればEXPO2014とFOXにおいてX線と同様に取り扱え、FOXではさらにTOFデータを扱うことができることを付記しておく。
なお、著者の属する惑星物質研究所は文部科学省認定の共同利用・共同研究拠点であり、ここで取り上げたNMR測定や構造解析に関しても共同利用および共同研究が可能となっている。共同利用の申請方法については研究所ホームページを参照されたい。