Vectorial_bond_valence法 の変更点


#author("2024-03-10T19:53:08+09:00","default:masami","masami")
#author("2024-03-10T20:04:38+09:00;2024-03-10T19:53:08+09:00","default:masami","masami")
**Vectorial bond valence法-revisited (2016/01/09) (以前あったものを大幅に改訂)(2016/09/12:追加) [#bbb1f503]
#contents
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 bond valence法の発展としてvectorial bond valence法というのがある(Bickmore et al., 2013)。この論文以前から似たような概念が提案されている。bond valence(BV)法はスカラーな計算なので,結合の立体的な情報は失われているが、その立体的な情報も取り込んでいるのがvectorial bond valence(VBV)法である。
 VBV法では,1つの結合を考えると、この結合方向を向いたベクトルをつくり、大きさはVB法で計算した値を使う。ある中心原子について、VBVベクトルの和はゼロかそれに近くなる(VBV和ゼロ則)。これは陽イオンでは比較的成り立っており、成り立たない場合はヤン・テラー効果など電子構造に原因が求められる。なお、陰イオンではあまり成り立たない。例えば石英構造の酸素を考えればよく分かる。酸素は2個のシリコンと結合していて、結合角(Si-O-Si)は143度くらいなので、ベクトル和はゼロにはならない。これは良く言えば酸素の非結合性電子対の効果が見えているのであり、I.D. Brown先生が言うように今後そこを追求すると結合角が予測できるようになるかもしれないが、現時点では実用上困る。もう少し高密度な酸化物では、酸素周りの配位数も4程度になり、もう少しましになっていそうであるが,以下見るように実際に計算してみるとそうではない。
**Vectorial bond valence法の計算 - プログラム作成 [#q03c3443]
 最近、VB和およびVBV和の計算プログラムを自作した(bvsum)。これはPythonで書いた(Swift版もあるが…)。コード内にGagne and Hawthorne(2015)のVBパラメータセットを組み込んでいる。これで計算したMg2SiO4多形の例を示す。なお、このプログラムは欠陥等のある構造も対象とするために対称性を使っていないので、セル内の全原子について計算される。VBV和については、ベクトルの大きさとその方向成分(xyz)を計算・表示している。
 まずforsterite(olivine構造)から。Mg,Si,Oの非等価な席がそれぞれ2,1,3個ある。短くするため、出力は少しいじっている。酸素のVBV和は0.5~0.8くらいと高い。
 Mg2SiO4 forsterite
     pair     distance  bond valence
 Mg 5 - O 13   2.1764     0.2772
 Mg 5 - O 17   2.0456     0.3724
 Mg 5 - O 21   2.2102     0.2568
 Mg 5 - O 23   2.0656     0.356
 Mg 5 - O 26   2.2102     0.2568
 Mg 5 - O 28   2.0656     0.356
 Bond valence sum         1.8751
 Vectorial BV sum |vsum|  0.0295
 Vectorial BV components  -0.027 -0.012 0.0

     pair     distance  bond valence
 Si 9 - O 13   1.6135     1.0274
 Si 9 - O 20   1.6542     0.9253
 Si 9 - O 21   1.6372     0.9666
 Si 9 - O 26   1.6372     0.9666
 Bond valence sum         3.886
 Vectorial BV sum |vsum|  0.204
 Vectorial BV components  0.2028 0.0214 0.0

     pair     distance  bond valence
 O 13 - Mg 1   2.0841     0.3414
 O 13 - Mg 3   2.0841     0.3414
 O 13 - Mg 5   2.1764     0.2772
 O 13 - Si 9   1.6135     1.0274
 Bond valence sum         1.9874
 Vectorial BV sum |vsum|  0.5283
 Vectorial BV components  0.526 0.0491 0.0

     pair     distance  bond valence
 O 17 - Mg 2   2.0677     0.3542
 O 17 - Mg 4   2.0677     0.3542
 O 17 - Mg 5   2.0456     0.3724
 O 17 - Si 12   1.6542     0.9253
 Bond valence sum         2.0061
 Vectorial BV sum |vsum|  0.7208
 Vectorial BV components  0.1393 -0.7072 0.0

     pair     distance  bond valence
 O 21 - Mg 1   2.131     0.3071
 O 21 - Mg 5   2.2102     0.2568
 O 21 - Mg 7   2.0656     0.356
 O 21 - Si 9   1.6372     0.9666
 Bond valence sum         1.8865
 Vectorial BV sum |vsum|  0.7675
 Vectorial BV components  -0.2457 0.4154 -0.5967

 次はMg2SiO4の変形スピネル相(=wadsleyite)。Mg,Si,Oの非等価な席がそれぞれ3,1,4個ある。やはり酸素のVBV和は0.4程度と高い。
 beta-Mg2SiO4
     pair     distance  bond valence
 Mg 1 - O 33   2.1151     0.3183
 Mg 1 - O 34   2.1151     0.3183
 Mg 1 - O 41   2.0463     0.3718
 Mg 1 - O 42   2.0463     0.3718
 Mg 1 - O 47   2.0463     0.3718
 Mg 1 - O 48   2.0463     0.3718
 Bond valence sum         2.1237
 Vectorial BV sum |vsum|  0.0
 Vectorial BV components  -0.0 -0.0 -0.0

     pair     distance  bond valence
 Mg 5 - O 25   2.0353     0.3812
 Mg 5 - O 29   2.0947     0.3333
 Mg 5 - O 41   2.0932     0.3345
 Mg 5 - O 43   2.0932     0.3345
 Mg 5 - O 46   2.0932     0.3345
 Mg 5 - O 48   2.0932     0.3345
 Bond valence sum         2.0524
 Vectorial BV sum |vsum|  0.1661
 Vectorial BV components  0.0 0.0 -0.1661

     pair     distance  bond valence
 Mg 9 - O 25   2.0163     0.3978
 Mg 9 - O 28   2.0163     0.3978
 Mg 9 - O 33   2.1234     0.3124
 Mg 9 - O 40   2.1234     0.3124
 Mg 9 - O 41   2.1279     0.3093
 Mg 9 - O 53   2.1279     0.3093
 Bond valence sum         2.0391
 Vectorial BV sum |vsum|  0.0724
 Vectorial BV components  0.0 -0.0724 0.0

     pair     distance  bond valence
 Si 17 - O 29   1.7012     0.82
 Si 17 - O 34   1.6382     0.9641
 Si 17 - O 52   1.6317     0.9805
 Si 17 - O 53   1.6317     0.9805
 Bond valence sum          3.745
 Vectorial BV sum |vsum|   0.0709
 Vectorial BV components   -0.0 -0.0158 0.0691
 
     pair     distance  bond valence
 O 25 - Mg 5   2.0353     0.3812
 O 25 - Mg 9   2.0163     0.3978
 O 25 - Mg 11   2.0163     0.3978
 O 25 - Mg 14   2.0163     0.3978
 O 25 - Mg 16   2.0163     0.3978
 Bond valence sum          1.9726
 Vectorial BV sum |vsum|   0.1635
 Vectorial BV components   0.0 0.0 0.1635

     pair     distance  bond valence
 O 29 - Mg 5   2.0947     0.3333
 O 29 - Si 17   1.7012     0.82
 O 29 - Si 19   1.7012     0.82
 Bond valence sum          1.9733
 Vectorial BV sum |vsum|   0.4595
 Vectorial BV components   0.0 0.0 0.4595

     pair     distance  bond valence
 O 33 - Mg 1   2.1151     0.3183
 O 33 - Mg 9   2.1234     0.3124
 O 33 - Mg 16   2.1234     0.3124
 O 33 - Si 18   1.6382     0.9641
 Bond valence sum          1.9073
 Vectorial BV sum |vsum|   0.3865
 Vectorial BV components   0.0 0.2588 -0.2871
 
     pair     distance  bond valence
 O 41 - Mg 1   2.0463     0.3718
 O 41 - Mg 5   2.0932     0.3345
 O 41 - Mg 9   2.1279     0.3093
 O 41 - Si 24   1.6317    0.9805
 Bond valence sum         1.996
 Vectorial BV sum |vsum|  0.3915
 Vectorial BV components  -0.2983 0.0316 0.2516
 
 最後はMg2SiO4のスピネル相(ringwoodite)。Mg,Si,Oの非等価な席がそれぞれ1個のみある。対称性が高く、陽イオンのVBV和はゼロだが、酸素は0.4くらいになる。
 gamma-Mg2SiO4 (spinel structure)

     pair     distance  bond valence
 Mg 1 - O 40   2.0933     0.3343
 Mg 1 - O 44   2.0933     0.3343
 Mg 1 - O 45   2.0933     0.3343
 Mg 1 - O 48   2.0933     0.3343
 Mg 1 - O 50   2.0933     0.3343
 Mg 1 - O 53   2.0933     0.3343
 Bond valence sum         2.0061
 Vectorial BV sum |vsum|  0.0
 Vectorial BV components  0.0 0.0 -0.0

     pair     distance  bond valence
 Si 17 - O 30   1.6178     1.016
 Si 17 - O 42   1.6178     1.016
 Si 17 - O 46   1.6178     1.016
 Si 17 - O 52   1.6178     1.016
 Bond valence sum          4.0642
 Vectorial BV sum |vsum|  0.0
 Vectorial BV components   -0.0 -0.0 -0.0

     pair     distance  bond valence
 O 25 - Mg 9   2.0933     0.3343
 O 25 - Mg 12   2.0933     0.3343
 O 25 - Mg 14   2.0933     0.3343
 O 25 - Si 22   1.6178     1.016
 Bond valence sum          2.0191
 Vectorial BV sum |vsum|   0.3966
 Vectorial BV components   0.229 0.229 0.229

**Vectorial bond valence法の応用 - 水素位置の推定 [#m53aa727]
-Bickmoreらの論文を読んで,すぐ思いついたのは水素位置の推定に使えないかである。構造解析で水素位置が求まらなかった場合でも,水素が結合している酸素はbond strengthやbond valence法等で簡単に同定できる。そこで,その酸素のVBV和がゼロとなるように水素を配置すればいいはずである。水素位置はbond valence mapを作成してやれば求まるが,こちらは代数計算のみで直接座標が瞬間的に求められる。一見いいアイデアのように思えた。しかしVBV和ゼロが成立していることが前提である。
-上記のように実際に自分で計算してみたら、多くの鉱物(酸化物)で酸素のVBVベクトル和がゼロから大きくずれていることが分かった。それはBickmore et al.でも指摘されていた。含水鉱物に至っては,むしろ水素を付けた方がゼロからのずれが大きくなる。最初のアイデアは行き詰まった。
-しかし、得られた結果をよく眺めてみると,水素を除くVBVベクトル和の方向は,大まかには水素のある方向と逆方向を向いている。そこで,Hの方向はVBV法から決め,OH長さはスカラーのBV(酸素のBV和を2とするように)から求める方法にたどり着いた。このhybridな方法を上記のVBV, BV計算プログラムに組み込んで,得られた結果を下の図に示した。これはphase Aという高圧含水ケイ酸塩結晶であるが,最初の水素なしの構造から,上記の方法で水素位置を推定したものが右の図である。水素は緑ボールで示している。この構造では2種の水素席がある。比較のために,第一原理計算で最適化した水素位置を左に示した。両者で比較的合っていることが分かる。
 Bickmoreらの論文を読んで,すぐ思いついたのは水素位置の推定に使えないかである。構造解析で水素位置が求まらなかった場合でも,水素が結合している酸素はbond strengthやbond valence法等で簡単に同定できる。そこで,その酸素のVBV和がゼロとなるように水素を配置すればいいはずである。水素位置はbond valence mapを作成してやれば求まるが,こちらは代数計算のみで直接座標が瞬間的に求められる。一見いいアイデアのように思えた。しかしVBV和ゼロが成立していることが前提である。
 上記のように実際に自分で計算してみたら、多くの鉱物(酸化物)で酸素のVBVベクトル和がゼロから大きくずれていることが分かった。それはBickmore et al.でも指摘されていた。含水鉱物に至っては,むしろ水素を付けた方がゼロからのずれが大きくなる。最初のアイデアは行き詰まった。
 しかし、得られた結果をよく眺めてみると,水素を除くVBVベクトル和の方向は,大まかには水素のある方向と逆方向を向いている。そこで,Hの方向はVBV法から決め,OH長さはスカラーのBV(酸素のBV和を2とするように)から求める方法にたどり着いた。このhybridな方法を上記のVBV, BV計算プログラムに組み込んで,得られた結果を下の図に示した。これはphase Aという高圧含水ケイ酸塩結晶であるが,最初の水素なしの構造から,上記の方法で水素位置を推定したものが右の図である。水素は緑ボールで示している。この構造では2種の水素席がある。比較のために,第一原理計算で最適化した水素位置を左に示した。両者で比較的合っていることが分かる。
 
CENTER:&ref(https://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~masami/images/phaseA_VBVdemo.png);
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/phaseA_VBVdemo.png,80%)
 
**水素位置:その他の例 [#gb575c8d]
-Inorganic ChemistryのASAPを見ていたら,高圧合成Ga2B3O7(OH)の構造解析論文が載っていた(DOI: 10.1021/acs.inorgchem.5b02027)。これは単結晶X線回折で,水素位置はフーリエ合成で見つかってない。著者らは位置を推定しているが,SI読んでも方法がはっきりしない。しかしBVを使っている感じがある。なぜなら,推定後のOH酸素のbv和が丁度2となっている。DFT計算も色々やっているので,DFTで最適化した値を出してくれればいいのだが,出していない。この方法のテストによさそうなので,水素位置推定を試してみた。もっともな位置(x=0.5,y=0.57,z=0.31)が得られた。著者らの推定位置(x=0.5,y=0.55,z=0.30)とそれほど違わない。ちなみに,この構造が気になったのでよく眺めると,bond valence法で結合距離が独立に求まるレアな構造(酸素環境がそれぞれ異なる)であった。独立な結合距離が13あって,連立方程式を作るのが少し大変であるが,結果は構造解析と大体合っている。
-別の例:H2Ti3O7構造(dx.doi.org/10.1021/ic401144k)。こちらは粉末中性子回折で2つの水素席が決められているが,水素を除いて計算してみる。この推定法では,H1(x=0.49,y=0.5,z=0.40), H2(x=0.54,y=0.5,z=0.13)となった。構造解析の結果は,H1(x=0.47,y=0.5,z=0.46), H2(x=0.54,y=0.5,z=0.19)。これもよくはないが、それほど外れてもいない。
 Inorganic ChemistryのASAPを見ていたら,高圧合成Ga2B3O7(OH)の構造解析論文が載っていた(https://doi.org/10.1021/acs.inorgchem.5b02027)。これは単結晶X線回折で、水素位置はフーリエ合成で見つかってない。著者らは位置を推定しているが、SI読んでも方法がはっきりしない。しかしBVを使っている感じがある。なぜなら、推定後のOH酸素のbv和が丁度2となっている。DFT計算も色々やっているので、DFTで最適化した値を出してくれればいいのだが、出していない。この方法のテストによさそうなので、水素位置推定を試してみた。もっともな位置(x=0.5,y=0.57,z=0.31)が得られた。著者らの推定位置(x=0.5,y=0.55,z=0.30)とそれほど違わない。ちなみにこの構造が気になったのでよく眺めると、bond valence法で結合距離が独立に求まるレアな構造(酸素環境がそれぞれ異なる)であった。独立な結合距離が13あって、連立方程式を作るのが少し大変であるが、結果は構造解析と大体合っている。
 別の例:H2Ti3O7構造(https://doi.org/10.1021/ic401144k)。こちらは粉末中性子回折で2つの水素席が決められているが、水素を除いて計算してみる。この推定法では、H1(x=0.49,y=0.5,z=0.40), H2(x=0.54,y=0.5,z=0.13)となった。構造解析の結果は、H1(x=0.47,y=0.5,z=0.46), H2(x=0.54,y=0.5,z=0.19)。これもよくはないが、それほど外れてもいない。
**まとめ [#cfe5f7c0]
-この方法は,水素位置がわからない時の初期構造モデルやシミュレーションの「初期値」としては使えるだろう。特にシミュレーション用のモデルを考えるときに、水素位置をそれらしく与えるのは結構面倒なので、自動的に計算してくれると助かる。我々の場合、陽イオンの一部をHで置換した構造を、第一原理計算で調べているので、初期構造作りに使っており、実際に役立っている。代数計算だけなので、計算は一瞬である。もちろんBV計算なので、水素ー水素間の反発などは一切考慮されていない。
-なお,酸素の周りに数種の水素席があり,確率的に占有しているようなケースではそのうちの1つが推定されるか,逆に多くの席が計算される場合がある。どちらにしろ、結果の吟味は不可欠である。このような場合はbond valence mapを書かせた方がいいかもしれない。
-この計算は極めて単純である。格子内の個々の原子周りのBVおよびVBVおよびそれらの和を計算する(酸素以外の計算はこの目的には必要ないが)。酸素のBV和が2を大きく下回る時には,それを不在の水素によるものと考えて,VBV和とは逆方向で,BV和が2からズレている分をBV計算式でO-H距離に直して,酸素からの相対位置を内部座標として計算する。水素は特異的に1配位なので,この推定が可能となる。なお,得られた水素の座標を入れて,再度計算を実施するとOH基酸素のVB和が2(+水素結合分)になっているが,VBV和は0からは遠い。水素自体のBVも計算されるので,推定した水素による水素結合の可能性などが分かるので、再計算をした方がよい。
-使っているプログラムは最初Pythonで作り,Swiftへも移植した(means Mac only)。最新版は水素位置を含めたファイル(Vestaのxtl形式)を自動で作るようにした。なお,シミュレーション結果などに適用することが最初からあるので,P1(対称性なし)で計算している。なお、インターン学生にLinuxを使って計算してもらう時にやはりPythonのコードが必要なので、オリジナルのPythonコードを直して、Swiftとほとんど同じになるようにした。水素位置を計算する場合は、xtlファイルを自動的に作り、Macの場合はそれをVestaでオープンするところまでできる。
-あまりに単純なので、同じことを考える人がいそうだし、論文にしたものか思案中。
 この方法は,水素位置がわからない時の初期構造モデルやシミュレーションの「初期値」としては使えるだろう。特にシミュレーション用のモデルを考えるときに、水素位置をそれらしく与えるのは結構面倒なので、自動的に計算してくれると助かる。我々の場合、陽イオンの一部をHで置換した構造を、第一原理計算で調べているので、初期構造作りに使っており、実際に役立っている。代数計算だけなので、計算は一瞬である。もちろんBV計算なので、水素ー水素間の反発などは一切考慮されていない。
 なお,酸素の周りに数種の水素席があり,確率的に占有しているようなケースではそのうちの1つが推定されるか,逆に多くの席が計算される場合がある。どちらにしろ、結果の吟味は不可欠である。このような場合はbond valence mapを書かせた方がいいかもしれない。
 この計算は極めて単純である。格子内の個々の原子周りのBVおよびVBVおよびそれらの和を計算する(酸素以外の計算はこの目的には必要ないが)。酸素のBV和が2を大きく下回る時には,それを不在の水素によるものと考えて,VBV和とは逆方向で,BV和が2からズレている分をBV計算式でO-H距離に直して,酸素からの相対位置を内部座標として計算する。水素は特異的に1配位なので,この推定が可能となる。なお,得られた水素の座標を入れて,再度計算を実施するとOH基酸素のVB和が2(+水素結合分)になっているが,VBV和は0からは遠い。水素自体のBVも計算されるので,推定した水素による水素結合の可能性などが分かるので、再計算をした方がよい。
 使っているプログラムは最初Pythonで作り,Swiftへも移植した(means Mac only)。最新版は水素位置を含めたファイル(Vestaのxtl形式)を自動で作るようにした。なお,シミュレーション結果などに適用することが最初からあるので,P1(対称性なし)で計算している。なお、インターン学生にLinuxを使って計算してもらう時にやはりPythonのコードが必要なので、オリジナルのPythonコードを直して、Swiftとほとんど同じになるようにした。水素位置を計算する場合は、xtlファイルを自動的に作り、Macの場合はそれをVestaでオープンするところまでできる。
 最新版はcifに対応しているが、pythonのみ。
 あまりに単純なので、同じことを考える人がいそうだし、論文にしたものか思案中。
**References [#l817a74f]
-M.A. Harvey, S. Baggio and R. Baggio, A new simplfying approach to molecular geometory description: the vectorial bond-valence model, Acta Cryst. B62, 1038-1042, 2006
-B.R. Bickmore et al., Electronic structure effects in the vectorial bond-valence model, American Mineralogist, 98, 340-349, 2013.
-I.D. Brown, A step closer to predicting the bonding geometry of crystals, American Mineralogist, 98, 1093-1094, 2013 これは2番目の論文の解説である。
-Gagne and Hawthorne, Acta Cryst. B71, 562, 2015. 最新のbond valenceのパラメータセット(酸化物のみ)
 なおBond valenceパラメータは元論文を見てもいいのですが、Brown先生がcifファイルにまとめているものがIUCRの[[こちら:https://www.iucr.org/resources/data/datasets/bond-valence-parameters]]のWebページにあります。