Bond_Valence_OKeeffe の変更点


#author("2024-03-08T14:51:32+09:00","default:masami","masami")
#author("2024-03-08T14:53:18+09:00;2024-03-08T14:51:32+09:00","default:masami","masami")
**bond valenceから結合距離を見積るO'Keeffeの方法 (2013 4/11作成, 2016 11/09追記) 
**更新情報 [#jf43e92a]
 (2022/02/21) Bond valenceパラメータはBrown先生がcifファイルにまとめてますが、これは出版されているデータを全て集めたものなので、同じイオン対でも複数あったり、どれを使っていいか分かりづらいところがあります。実際にはBrese&O'Keeffe, Bronw&Altermatt, Gagne&Hawthorneが多くのイオンで結晶構造から総合的に決めたデータセットを使うことが多いので、それらのデータをそれぞれファイルにまとめたものを作りました。[[Bond_Valenceパラメータセット]]
 (2022/02/19) Bond valenceパラメータは元論文を見てもいいのですが、Brown先生がcifファイルにまとめているものがIUCRの[[こちら:https://www.iucr.org/resources/data/datasets/bond-valence-parameters]]のWebページにあります。
 (2017/10/18) 解説(pdf)で使っている結晶構造の論文が出版された。この論文では比較のためにO'Keeffeの方法で計算したbond valenceと結合距離の比較も入れた。[[論文Link:https://doi.org/10.2465/jmps.170617]]
 (2017/5/31) 解説pdfにもBrownの方法を追加して更新
 (2016/11/09) I.D. Brownの計算方法を追加した。
**O'Keeffeの計算方法 [#o5994e31]
 bond valenceから結合距離を見積る必要があったので、O'Keeffeのbond valenceの計算法を勉強。その時のメモ。実例(pdf)へのリンクが下にある。最後の注意にあるように、この方法は全ての構造に適用できるものではない。むしろ希と言った方が正しいかも。
-M. O'Keeffe (1990), A method for calculating bond valences in crystals, Acta Crystallographica A46, 138-142.
 I.D. Brownなどにより発展してきたbond valence法は、結晶構造が既知の場合、注目する中心原子の周りの原子との各結合からの寄与(距離から計算)を足して、中心原子のvalenceを求めることに使える。これは構造が正しいか、価数が正しいか、さらに水素位置が決まらなかった時にどの酸素が水素と結合しているかの判定に役立つ。
 逆に結合距離を推定するためにも使える。結晶構造が正確には分かってないか、又は構造が分かっているが、構造が正しいかチェックしたい状況において、単純には原子のvalenceを配位数で割って、この1つのbond valenceに対応する原子間距離を求めればいい。しかしこれで得られるのは平均原子間距離であって、実際の結晶では対称性の高い構造を除いて、結合距離は個々の結合で同じではない。個々の結合について計算するにはbond valenceをそのトポロジーに応じて再分配することが必要となる。例えば酸化物で独立な酸素席O1,O2がある場合、A-O1, A-O2のbond valenceを独立に計算したいということになる。そのような計算は可能で、Brown自身が既に提案しているが(下の方に解説)、その方法では繰り返し計算が必要だった。O'Keeffeが提案する計算法では、1度だけの計算で決定することができる。重みをつけない場合には両者は同じ結果となる。
 bond valenceの総和が原子のvalenceに等しいので、そこから独立な原子数分の式が得られる。これで(独立な原子席数-1)だけの式が得られる。しかしこれでは方程式を解くには式が足りないので、結合のリングに沿ってのbond valenceの総和がゼロになるという、これまたBrownの規則を使う。これは結晶中で適当な結合のリングを考えて、例えばO1-Zn-O2-Ge-(O1)の2員環だとすると、ここでの総和は(v(Zn-O1)-v(Zn-O2))+(v(Ge-O2)-v(Ge-O1))=0となる。なおv(Zn-O1)は原子Znと原子O1とのbond valenceである。向きが逆の結合はマイナスにする。同様にして解を得るのに必要な分だけ式をつくる。これは実際の結晶構造を見て考える必要はなく、connective matrixを作って、そこから分かる。必要な式が得られたら、後はそれを代数的に解く。ただ、これにより計算される結合距離があまりよくないので、さらに各項に重み(s)をつけて、上記例では(v(Zn-O1)-v(Zn-O2))/s1+(v(Ge-O2)-v(Ge-O1))/s2 = 0とすることが行われる。O'Keeffe先生はこの重みとして、Paulingのbond strengthを使っている。つまり最初の項だとZnの価数2を配位数で割ったものを重みとして使う。Brown先生のやり方では重みは使っていない。
 この計算法で各結合でbond valenceを求めることができ、そこから得られる結合距離は結構よく合っているようだ。ただし、独立な原子が区別されても結合距離は常に1種だけではない(例えばZn-O1はいくつかの種類があり得る)。その場合は平均距離として得られているということになる。
 計算方法の詳細(ZnSUB{SIZE(9){2}}GeOSUB{SIZE(9){4}}正方晶スピネルとZnSUB{SIZE(9){2}}SiOSUB{SIZE(9){4}}変形スピネル)について書いたもの(pdf)を[[ココ:https://mkanzaki.sakura.ne.jp/pdfs/bond-valence.pdf]]に置いてます。最近、論文にまとめようとして再計算したら、間違いがいくつかあったので改訂しました。ついでにBrownの方法も追加してます(2017/05/31)。
 現在のところ、結晶構造を眺めて、connective matrixを作って、方程式を手で書いて、matrixをinversionするところだけをRに計算してもらっている。完全に自動で計算するには、構造のつながりを解析する必要があって、これは結構ハードルが高い。
**注意 [#z60cfe47]
 その後、他の構造を試してみたところ、この方法(Brownも同様)は構造によっては適用できないことが分かった(適用できない方が実は多い)。私が最初に試した2つは幸運なことに適用できるケースだった。できない構造は、非等価な酸素席から見て、つながっている配位多面体がみんな同じ環境になっている場合。そのためにvalenceの再配分が不可能なためだと思う。例えば4配位席、6配位席があって、全ての酸素席が1つの4配位席と2つの6配位席につながっているような場合はダメ。1つの酸素席は2つの4配位席と、別の酸素席は3つの6配位席とつながっているなどと環境が異なっていると適用できる。暇な時に色々な構造で試してみている。
-適用できるケース:正方晶スピネル、変形スピネル(wadsleyite), CaIrO3, C2/c輝石, Ga2B3O7(OH), (H5O2)2SO4, Na2B4O7, K2S5O16, Na2PO3F, CaCrF5, TeI4, YBa2Cu3O7, CaAl12O19, BaGe2O5 IIなど。
-適用できないケース:オリビン、ペロブスカイト構造など、また酸素が1種しかなく適用できないケース(立方晶スピネル、ガーネット、リチル、イルメナイト、コランダムなど)。
**Brown(1977)の計算方法(2016/11/09追加) [#j3b704ed]
 Brown(1977)の計算方法についても説明しておく。特定の結合(例えばM-O)について、価数を配位数で割って、Mの平均のbond valenceを計算して、その結合のbond valenceとする。しかし、O側でも同じようにしてbond valenceが計算できるので、M-Oのbond valenceとしてその平均値を使う。同様に他の結合についても計算する。そうして計算されたbond valenceを足し合わせて各元素席の和(=valence)を計算すると、それらは本来の価数からずれている。そこでずれた分だけ、bond valenceを修正する(単純に価数からのずれを配位数で割った分を修正値として各bond valenceに割り振る)。そこでまた各元素のvalenceを計算すると改善されている。この計算を繰り返すと、bond valenceは収束していく。収束したbond valenceから、結合距離が計算できる。簡単な構造について手計算でやってみたが、確かにうまくいく。O'Keeffeの方法と比べて、リングを探す手間や連立方程式を組み立てる必要がないので、プログラム作成にはこちらの方が簡単かも。また、O'Keeffeの方法で重みを付けない場合は、Brownの方法と一致する。
-I.D. Brown(1977) Predicting bond lengths in inorganic crystals, Acta Crystallographica, B33, 1305-1310.
***計算例(CaIrO3(perovskite構造ではない)の場合)
***計算例(CaIrOSUB{SIZE(9){3}}(perovskite構造ではない)の場合)
 まず席のつながりを考える。私は下のような表を作っている。これはO1(酸素席1)はCaと2つ、Irと2つ結合を持っていて(2/2などの上側の数字)、O2はCaと3つ、Irと2つ結合を持っている。逆にCaはO1と2つ、O2とは6つ結合を持って、IrはO1と2つ、O2と2つ持っていることを示している。一番外側にはその和(配位数)が示してある。
,,Ca,Ir,sum 
,O1,2/2,2/2,4
,O2,3/6,2/4,5
,sum,8,6,
 上記の説明通りに計算を行う。その時に上記の表を参照する。Ca-O1の場合、Caの価数が2で配位数が8なのでCa側が2/8, O1の方は価数2で配位数が4なのでO1側が2/4で、その平均値(Ca-O1のbond valence)は0.375となる。同様な計算をCa-O2, Ir-O1, Ir-O2について行う。そうして計算された各結合のbond valenceを足して、各席の価数を計算する(表の下側半分)。Caの場合、上記の表を見ると、O1が2つ、O2が6つなので、2*0.375+6*0.325 = 2.7となる。同様にIr, O1, O2について計算する。下表の2列目(1st)にその計算値を書き込んでいる。
 各席の価数を見ると明らかに本来の価数からずれている(Caの2.7など)。そこで本来の価数になるように、bond valence側に修正を加える(2nd列の計算がそれ)。Ca-O1の場合、Caの価数が2.7で、0.7過剰なので、(2.0-2.7)/8だけ修正。一方O1側は1.9167であるので、(2.0-1.9167)/4だけ修正。その結果、0.2948となる。同様な計算をCa-O2, Ir-O1, Ir-O2について行い、同様に価数を計算する。前回よりは本来の価数により近くなっているはず。
 後は2列目と同じ計算を、価数が本来の値に収束するまで繰り返す。表計算ソフトを使うなら、2列目の計算自体をセルに書き込んで、それを右側にずっとドラッグすれば、自動で計算してくれて、すぐ収束する。それが求めるbond valenceで、そこからBrownらのbond valence parameterを使って結合距離を計算する。下表には4列目までの結果を書いているが、これくらいでもほぼ収束しているのがわかる。Ca-O2は実際には2つの結合距離があるが、予測では2つに分けて計算できないので、平均値と比較している。Brownの方法で重みをつけることも可能だろう。それにはbond valenceを修正する時にbond毎に異なった重みをつけてやればよいはず。やって見たところ、2つの値で振動し、収束しない場合が見られた。この場合は2つの値の平均を取ってやればよいだろう。今の所、O'Keeffeの重みとこちらの重みとの対応がよくわかっていない。
,,1st,2nd,3rd,4th
,Ca-O1,(2/8+2/4)/2=0.375,0.375+((2.0-2.7)/8)+((2.0-1.9167)/4)=0.2948,0.2948,0.2943
,Ca-O2,(2/8+2/5)/2=0.325,0.325+((2.0-2.7)/8)+((2.0-2.04167)/5)=0.2292,0.2360,0.2352
,Ir-O1,(4/6+2/4)/2=0.58333,0.58333+((4.0-3.3)/6)+((2.0-1.9167)/4)=0.7208,0.7049,0.7060
,Ir-O2,(4/6+2/5)/2=0.5333,0.5333+((4.0-3.3)/6)+((2.0-2.04167)/5)=0.6417,0.6461,0.6470
,Ca,2*0.375+6*0.325 = 2.7,2*0.2948+6*0.2292=1.992,2.006,1.9999
,Ir,2*0.58333+4*0.5333=3.3,2*0.7208+4*0.6417=4.008,3.994,4.000
,O1,2*0.375+2*0.58333=1.9167,2*0.2948+2*0.7208=2.0583,1.9993,2.0000
,O2,3*0.325+2*0.5333=2.04167,3*0.2292+2*0.6417=1.971,2.0003,1.9998
***CaIrOSUB{SIZE(9){3}}結合距離予測の比較(実測の結合距離はCODの1538530.cifから)
 Brown, O'Keeffeのbond valenceは大体似た値になっている。この程度の予測ができる。
,bond,構造解析結果,Brown BV,Brown距離,O'Keeffe BV, O'Keeffe距離
,Ca-O1,2.395,0.2941,2.408,0.2747,2.435
,Ca-O2,2.476(av),0.2353,2.499,0.2418,2.488
,Ir-O1,1.939,0.7059,1.999,0.7253,1.992
,Ir-O2,2.066,0.6471,2.021,0.6374,2.025
***MgSiOSUB{SIZE(9){3}}のCaIrOSUB{SIZE(9){3}}構造への応用
 ちなみにMgSiOSUB{SIZE(9){3}}は下部マントルの底でCaIrOSUB{SIZE(9){3}}構造に転移すると考えられている。この相は常圧に回収できないが、常圧下の結合距離は上記の方法で推定できる(普通bond valence parameterは常温常圧下の構造から決められているので、それらを使った結合距離は常温常圧のものとなる)。bond valenceはCaIrO3のままで、bond valence parameterをMg, Siに変えて、結合距離を計算するだけ。比較のためDFT計算した結果(Quantum-Espresso, PBEsol(GGA))を示す。まあ、傾向は一致している。
 ちなみにMgSiOSUB{SIZE(9){3}}は下部マントルの底でCaIrOSUB{SIZE(9){3}}構造に転移すると考えられている。この相は常圧に回収できないが、常圧下の結合距離は上記の方法で推定できる(普通bond valence parameterは常温常圧下の構造から決められているので、それらを使った結合距離は常温常圧のものとなる)。bond valenceはCaIrOSUB{SIZE(9){3}}のままで、bond valence parameterをMg, Siに変えて、結合距離を計算するだけである。比較のためDFT計算した結果(Quantum-Espresso, PBEsol(GGA))を示す。まあ、傾向は一致している。
,bond,Brown距離,O'Keeffe距離,DFT計算
,Mg-O1,2.150,2.180,2.038
,Mg-O2,2.249,2.237, 2.227+2.283
,Si-O1,1.759,1.749,1.792
,Si-O2,1.793,1.799,1.812