解説PCM2017-1 の変更点


#author("2024-03-10T17:23:42+09:00","default:masami","masami")
#author("2024-03-10T18:03:55+09:00;2024-03-10T17:23:42+09:00","default:masami","masami")
*解説PCM2017
-Kanzaki, M., Xue, X., Wu, Y. and S. Nie, Crystal structures of two oxygen-deficient perovskite phases in the CaSiO3-CaAlO2.5 join, Physics and Chemistry of Minerals, 44, 717-733, 2017 の日本語解説
 Kanzaki, M., Xue, X., Wu, Y. and S. Nie, Crystal structures of two oxygen-deficient perovskite phases in the CaSiO3-CaAlO2.5 join, Physics and Chemistry of Minerals, 44, 717-733, 2017 の日本語解説
**序 [#g2d80dac]
-過去の高圧実験からCaSiO3-CaAlOS2.5系において、酸素欠損型のペロブスカイト相の存在が知られている。CaAl0.5Si0.5O2.75組成およびCaAl0.4Si0.6O2.8組成ではそれぞれ低圧相と高圧相が知られているが、どちらも低圧相はシャープなX線回折線を示しており、構造的にはorderした構造と見られている。それらの構造モデルは提案されているが、双晶が多いことから単結晶構造解析は難しく、長らく結晶構造が分からないままであった。本研究では、NMR法と放射光粉末X線回折を使った未知構造解析法を使って、それら低圧相の結晶構造を明らかにした。
 過去の高圧実験からCaSiO3-CaAlOS2.5系において、酸素欠損型のペロブスカイト相の存在が知られている。CaAl0.5Si0.5O2.75組成およびCaAl0.4Si0.6O2.8組成ではそれぞれ低圧相と高圧相が知られているが、どちらも低圧相はシャープなX線回折線を示しており、構造的にはorderした構造と見られている。それらの構造モデルは提案されているが、双晶が多いことから単結晶構造解析は難しく、長らく結晶構造が分からないままであった。本研究では、NMR法と放射光粉末X線回折を使った未知構造解析法を使って、それら低圧相の結晶構造を明らかにした。
**方法 [#h547d3bd]
-CaAl0.5Si0.5O2.75およびCaAl0.4Si0.6O2.8の低圧相はマルチアンビル装置を使って高圧合成した。回収後の試料の一部を使って、SPring-8のBL19B2で粉末回折パターンを測定した。SiとAlの局所構造情報を得るために、29Si MAS NMR, 27Al MASおよび27Al 3Q MAS NMR測定も行った。初期構造を求めるために、粉末回折データから実空間探索により結晶構造を求めるFoxプログラムを使用した。FoxにはNMRから得られた情報(配位数)、過去のTEM観察から分かっている超構造の情報(最密パッキング方向にそれぞれ8層、10層あること)を制約として導入した。最終的に得られた構造について、RIETAN-FPを使って結晶構造の精密化を行なった。構造のチェックのために第一原理計算(構造最適化およびNMRパラメータ計算)も行った。
 CaAl0.5Si0.5O2.75およびCaAl0.4Si0.6O2.8の低圧相はマルチアンビル装置を使って高圧合成した。回収後の試料の一部を使って、SPring-8のBL19B2で粉末回折パターンを測定した。SiとAlの局所構造情報を得るために、29Si MAS NMR, 27Al MASおよび27Al 3Q MAS NMR測定も行った。初期構造を求めるために、粉末回折データから実空間探索により結晶構造を求めるFoxプログラムを使用した。FoxにはNMRから得られた情報(配位数)、過去のTEM観察から分かっている超構造の情報(最密パッキング方向にそれぞれ8層、10層あること)を制約として導入した。最終的に得られた構造について、RIETAN-FPを使って結晶構造の精密化を行なった。構造のチェックのために第一原理計算(構造最適化およびNMRパラメータ計算)も行った。
**結果と議論
-29Si MAS NMRからは、CaAl0.5Si0.5O2.75には4配位Si席のみ、CaAl0.4Si0.6O2.8には1/3くらい6配位Si席、残りは4配位席を占めることが分かった。以前EELSの結果からCaAl0.5Si0.5O2.75には6配位Si席もあると議論されていたが、これは明らかに正しくない。27Al MASと3Q MAS NMRからは、どちらの相もAlは6配位のみであることがわかった。
-NMR等の情報を制約に使ってFoxで結晶構造を解くことができた。しかし空間群の決定はかなり難しく、第一原理計算も行って、求めた構造が正しいことをチェックした。なお、CaAl0.5Si0.5O2.75については、ほぼ同じR因子を持つ、2つの構造が得られており(model1, model2)、それらはそれぞれc軸方向に1/4ずれた関係となっている。Rietveld法で構造を精密化した。
-これらの結晶構造を最密パッキングから考察した。酸素欠損のない理想ペロブスカイト構造では、酸素+Caイオンが最密パッキング層(CaO3)を形成する。CaAl0.5Si0.5O2.75では、最密パッキング層の4層に1つの層の間隔で、酸素が1/3欠損している(CaO2)。この層では酸素位置がずれて、前後層とで新たに四面体位置が生じる。ここにSiが入っており、それ以外の酸素欠損のない層ではAlが通常のペロブスカイトと同じく八面体位置を占める。CaAl0.4Si0.6O2.8の場合は、これが5層に1つの層の間隔で酸素が欠損していることになった。一方、多面体のパッキングから考えると、CaAl0.5Si0.5O2.75では、八面体層が2層、四面体層が2層と2度繰り返して、8層周期を作っていることが分かった。八面体席にはAl、四面体席にはSiが占めている。29Si NMRが示すように、それらの席間にはdisorderは生じておらず、Siは4配位のみである。一方、CaAl0.4Si0.6O2.8の場合は、八面体層が3層、四面体層が2層と2度繰り返して、10層周期を作っている。連続する八面体3層のうち、中央層はSiが占めており、上下層はAlが占めている。つまり、この組成ではSiの1/3は6配位、残りは4配位となり、29Si MAS NMRの結果とも一致する。それ以外の構造の特徴としては、四面体の酸素の1つが他の多面体と共有されていないnon-bridging oxygenであること。
-Caはどちらの相も3種の席があり、立方晶ペロブスカイトと同じの12配位席、酸素欠損のある層内にある6配位席、その中間の10配位席となる。酸素層の6配位席Caは理想位置からずれた位置にあり、これが対称性を下げる原因となる。このずれは第一原理計算でも再現された。
-CaAl0.5Si0.5O2.75とCaAl0.4Si0.6O2.8の構造を比べて見ると、前者は八面体層が2層、後者は3層あり、四面体層部分は同じである。そこから考えると、merwinite (Ca3MgSi2O8)は類似構造であり、八面体層が1層になる構造と見なせることを指摘した。これらを考えると、八面体層の数に関してホモロガスな関係があると提案した。
**構造データダウンロード(cif file) (モデル2以外は既にCODへdeposit済み) [#f3fa1203]
-[[CaAl0.5Si0.5O2.75酸素欠損ペロブスカイト相モデル1:https://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~masami/defect-pv-8layer-model1.cif]]
-[[CaAl0.5Si0.5O2.75酸素欠損ペロブスカイト相モデル2:https://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~masami/defect-pv-8layer-model2.cif]] モデル1と同じとみなされるため、CODにこのデータをdepositできていない
-[[CaAl0.4Si0.6O2.8酸素欠損ペロブスカイト相:https://www.misasa.okayama-u.ac.jp/~masami/defect-pv-10layer.cif]]
 29Si MAS NMRからは、CaAl0.5Si0.5O2.75には4配位Si席のみ、一方CaAl0.4Si0.6O2.8には1/3くらい6配位Si席があり、残りは4配位席を占めることが分かった。以前EELSの結果からCaAl0.5Si0.5O2.75には6配位Si席もあると議論されていたが、これは明らかに正しくない。27Al MASと3Q MAS NMRからは、どちらの相もAlは6配位のみであることがわかった。
 NMR等の情報を制約に使ってFoxで結晶構造を解くことができた。しかし空間群の決定はかなり難しく、第一原理計算も行って、求めた構造が正しいことをチェックした。なお、CaAl0.5Si0.5O2.75については、ほぼ同じR因子を持つ、2つの構造が得られており(model1, model2)、それらはそれぞれc軸方向に1/4ずれた関係となっている。Rietveld法で構造を精密化した。
 これらの結晶構造を最密パッキングから考察した。酸素欠損のない理想ペロブスカイト構造では、酸素+Caイオンが最密パッキング層(CaO3)を形成する。CaAl0.5Si0.5O2.75では、最密パッキング層の4層に1つの層の間隔で、酸素が1/3欠損している(CaO2)。この層では酸素位置がずれて、前後層とで新たに四面体位置が生じる。ここにSiが入っており、それ以外の酸素欠損のない層ではAlが通常のペロブスカイトと同じく八面体位置を占める。CaAl0.4Si0.6O2.8の場合は、これが5層に1つの層の間隔で酸素が欠損していることになった。一方、多面体のパッキングから考えると、CaAl0.5Si0.5O2.75では、八面体層が2層、四面体層が2層と2度繰り返して、8層周期を作っていることが分かった。八面体席にはAl、四面体席にはSiが占めている。29Si NMRが示すように、それらの席間にはdisorderは生じておらず、Siは4配位のみである。一方、CaAl0.4Si0.6O2.8の場合は、八面体層が3層、四面体層が2層と2度繰り返して、10層周期を作っている。連続する八面体3層のうち、中央層はSiが占めており、上下層はAlが占めている。つまり、この組成ではSiの1/3は6配位、残りは4配位となり、29Si MAS NMRの結果とも一致する。それ以外の構造の特徴としては、四面体の酸素の1つが他の多面体と共有されていないnon-bridging oxygenであること。
 Caはどちらの相も3種の席があり、立方晶ペロブスカイトと同じ12配位席、酸素欠損のある層内にある6配位席、その中間の10配位席となる。酸素層の6配位席Caは理想位置からずれた位置にあり、これが対称性を下げる原因となる。このずれは第一原理計算でも再現された。
 CaAl0.5Si0.5O2.75とCaAl0.4Si0.6O2.8の構造を比べて見ると、前者は八面体層が2層、後者は3層あり、四面体層部分は同じである。そこから考えると、merwinite (Ca3MgSi2O8)は類似構造であり、八面体層が1層になる構造と見なせることを指摘した。これらを考えると、八面体層の数に関してホモロガスな関係があると提案した。
**構造データダウンロード(cif file)(モデル2以外は既にCODへdeposit済み) [#f3fa1203]
-[[CaAl0.5Si0.5O2.75酸素欠損ペロブスカイト相モデル1:https://mkanzaki.sakura.ne.jp/data/defect-pv-8layer-model1.cif]]
-[[CaAl0.5Si0.5O2.75酸素欠損ペロブスカイト相モデル2:mkanzaki.sakura.ne.jp/data/defect-pv-8layer-model2.cif]] モデル1と同じとみなされるため、CODにこのデータをdepositできていない
-[[CaAl0.4Si0.6O2.8酸素欠損ペロブスカイト相:https://mkanzaki.sakura.ne.jp/data/defect-pv-10layer.cif]]