解説JMPS2016-2 の変更点


#author("2024-03-10T09:26:45+09:00","default:masami","masami")
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*解説JMPS2016-2 [#j89fdd1a]
-Kanzaki, M. (2016) Hydrogen distribution in chondrodite: a first-principles calculation, J. Mineral. Petrol. Sci., 111, 425-430 (https://doi.org/10.2465/jmps.160717)の解説
**イントロ [#t19bca71]
-chodroditeやclinohumiteはhumite族の鉱物であり、天然では石灰岩類が接触変成作用を受けた場合などに生じる。humite族の化学組成は一般にMgSUB{SIZE(9){2n-1}}SiSUB{SIZE(9){n}}OSUB{SIZE(9){4n-2}}*2MgO(OH,F)と書け、n=1がnorbergite, n=2がchondodite, n=3がhumite, n=4がclinohumiteとなる。天然のhumite族鉱物の場合、Fが多く、OHはFよりも少ない場合がほとんどである。圧力をかけると、Fを完全にOHで置き換えたchondrodite-OHやclinohumite-OHが合成できる。これら高圧合成相の結晶構造は、中性子回折等で調べられており、Hは2つの席(H1, H2)に半分ずつ(占有率50%)存在することが分かっている。一方、天然のFを含むchondroditeやclinohumiteの構造も多く研究されているが、こちらではH1席にしか水素が見つかっていない。なぜ、Fを多く含むchondroditeやclinohumiteではH2席に水素が入らないのだろうか。この疑問が本研究の発端である。また、古典的なエネルギー計算の研究が既にあり、その結果ではH2席に水素が入った方が安定であるという結果が出ており、構造解析結果とは逆になっている。この矛盾を解明するために第一原理計算を行ってみた。
 chodroditeやclinohumiteはhumite族の鉱物であり、天然では石灰岩類が接触変成作用を受けた場合などに生じる。humite族の化学組成は一般にMgSUB{SIZE(9){2n-1}}SiSUB{SIZE(9){n}}OSUB{SIZE(9){4n-2}}*2MgO(OH,F)と書け、n=1がnorbergite, n=2がchondodite, n=3がhumite, n=4がclinohumiteとなる。天然のhumite族鉱物の場合、Fが多く、OHはFよりも少ない場合がほとんどである。圧力をかけると、Fを完全にOHで置き換えたchondrodite-OHやclinohumite-OHが合成できる。これら高圧合成相の結晶構造は、中性子回折等で調べられており、Hは2つの席(H1, H2)に半分ずつ(占有率50%)存在することが分かっている。一方、天然のFを含むchondroditeやclinohumiteの構造も多く研究されているが、こちらではH1席にしか水素が見つかっていない。なぜ、Fを多く含むchondroditeやclinohumiteではH2席に水素が入らないのだろうか。この疑問が本研究の発端である。また、古典的なエネルギー計算の研究が既にあり、その結果ではH2席に水素が入った方が安定であるという結果が出ており、構造解析結果とは逆になっている。この矛盾を解明するために第一原理計算を行ってみた。
**方法 [#of703ae5]
-第一原理計算はQuantum-Espressoというプログラムを使って、最初にchodrodite-OHやそのOHの半分をFで置き換えたモデル(前者の場合は水素位置の配置の仕方で16通りある)を作り、その構造を最適化し、各モデルのエネルギーを比べて見た。
 第一原理計算はQuantum-Espressoというプログラムを使って、最初にchodrodite-OHやそのOHの半分をFで置き換えたモデル(前者の場合は水素位置の配置の仕方で16通りある)を作り、その構造を最適化し、各モデルのエネルギーを比べて見た。
**結果と議論 [#w0e173ec]
-H1席を100%占有した場合、H1席は別のH1席とかなり近い距離にあることから、水素原子同士の反発でエネルギー的に不利とされてきた。今回の計算ではH2席に100%入るよりも、H1席に100%入る方がエネルギーが低いという結果となった。これは実際に構造最適化をするとH1席のHは別のHからなるべく離れた位置にずれて、反発エネルギーを低くするからである。一方、H2席は全く安定でないことが分かる。しかし、最も安定な配置はH1席100%ではなく、H1席に半分入って、H2席にも半分入る配置であることが分かった。なぜこの配置が最も安定でなのだろうか。この配置ではH1-H1の反発は消える一方、不人気なH2席に水素を入れるため、エネルギー的にかならずしも安定には見えない。実はこの配置になることで、O-H1--O(-H2)の水素結合ができることが重要で、これでエネルギー的な見返りがある。そのためにこの構造が最安定となる。H1, H2席に半分づつ入ることは、既に知られている構造解析結果とも一致する。
-OHの半分をFで置き換えたchondroditeモデルの場合は、既にHが半分になっているため、H1席に100%入れることはできない(最大50%)。なので、H1席に50%入った場合と、H2に50%入った場合の安定性を比べた。この場合もFのない計算から予想されるように、H1席に入れた方が安定であった。これはもちろん、50%なので、H1-H1間の反発がもう起こらないからである。天然のchondorditeの構造解析結果と一致する。天然ではTiが入ったケースもあり、Tiの場合も計算している。また、予察的だが、似た計算をclinohumite等でもやってみたところ、同様な結果が得られた。これとよく似た状況はtopazにもあるので、topazでも同様に水素分布が説明できると期待される。これらの含水相の水素位置分布とその安定性に水素結合が重要な役割をしていることが分かった。
 H1席を100%占有した場合、H1席は別のH1席とかなり近い距離にあることから、水素原子同士の反発でエネルギー的に不利とされてきた。今回の計算ではH2席に100%入るよりも、H1席に100%入る方がエネルギーが低いという結果となった。これは実際に構造最適化をするとH1席のHは別のHからなるべく離れた位置にずれて、反発エネルギーを低くするからである。一方、H2席は全く安定でないことが分かる。しかし、最も安定な配置はH1席100%ではなく、H1席に半分入って、H2席にも半分入る配置であることが分かった。なぜこの配置が最も安定でなのだろうか。この配置ではH1-H1の反発は消える一方、不人気なH2席に水素を入れるため、エネルギー的にかならずしも安定には見えない。実はこの配置になることで、O-H1--O(-H2)の水素結合ができることが重要で、これでエネルギー的な見返りがある。そのためにこの構造が最安定となる。H1, H2席に半分づつ入ることは、既に知られている構造解析結果とも一致する。
 OHの半分をFで置き換えたchondroditeモデルの場合は、既にHが半分になっているため、H1席に100%入れることはできない(最大50%)。なので、H1席に50%入った場合と、H2に50%入った場合の安定性を比べた。この場合もFのない計算から予想されるように、H1席に入れた方が安定であった。これはもちろん、50%なので、H1-H1間の反発がもう起こらないからである。天然のchondorditeの構造解析結果と一致する。天然ではTiが入ったケースもあり、Tiの場合も計算している。また、予察的だが、似た計算をclinohumite等でもやってみたところ、同様な結果が得られた。これとよく似た状況はtopazにもあるので、topazでも同様に水素分布が説明できると期待される。これらの含水相の水素位置分布とその安定性に水素結合が重要な役割をしていることが分かった。