#author("2025-03-12T09:50:53+09:00;2025-02-21T08:43:51+09:00","default:masami","masami") *円偏光ラマン分光測定(作成2025/02/20)(更新2025/02/22) #author("2025-03-12T09:51:11+09:00;2025-02-21T08:43:51+09:00","default:masami","masami") *円偏光ラマン分光測定(作成2025/02/20)(更新2025/03/12) #image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/Circular_Polarization_setup-20250216.png,center,20%) #contents ---- **経緯 円偏光で水晶(石英)を測定してみました。最近の研究によると円偏光を使ったラマン測定でカイラルフォノン(chiral phonon)が螺旋構造を持つ結晶で検出されています(大石ら,2024)。それを再現してみます。方法は以前書いた偏光測定とほぼ同じで、そこで使った1/2波長板を1/4波長板に変えるだけです。使っているのは488 nmの自作顕微ラマン分光器です。なお、これは挑戦的研究(萌芽)2024-2025で実施している研究の一部です。 **円偏光の制御 #image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/QW_Plate_in_ELL14.png,right,20%) [[ELL14をpythonで制御する]]で紹介しているソーラボのELL14回転マウントに1/4波長板を取り付けます(右の写真)。ELL14自体は上下からソーラボの30/60 mmケージ変換プレートで挟まれています。60 mm側でELL14基板を上下から固定して、上のプレートの30 mm側で上側のケージキューブに固定。下のプレートには対物レンズが固定されます。 直線偏光(レーザー光)が1/4波長板の光軸と一致して入射すると直線偏光のままで、光軸から45度時計方向に回転して入射すると右円偏光になります。反時計方向に45度回転の場合は左円偏光になります。1/4波長板の回転角度をELL14で制御することで右と左の円偏光を作り出すことができます。この回転マウントは対物レンズ直上に設置しています(一番上の写真がその状況です)。なお、対物レンズはELL14回転マウントとは直接つながってません(対物レンズは回転しない)。これを取り付けると対物レンズ位置が44 mmくらい下がるので試料ステージ部分から透過ユニットを外しておきます。必要なら30 mmアルミ板等を別の厚さのものと交換します。 1/4波長板に描かれている光軸方向のラインを目安に、大体どの程度ELL14を回転すると右円偏光、左円偏光になるかを予め肉眼で決めているだけなので精度的には数度ずれがありそうです。もう少しよい方法を考えているところです。 ELL14は静電気や別のUSBポートからの信号で誤動作しやすい傾向がみられました(ただ個体の問題かも)。幸運なことに測定中は誤動作しないので、毎回測定する直前に角度を設定しています(以前と同じ角度でも再設定することが必要)。 アナライザー(後方の偏光子)には今回は普通の偏光板を使いました。こちらは基本的には平行と直交の2つの回転位置だけで使います。手動回転マウントに入れてます。こちらは1/4波長板入れる前に直線偏光を使ったラマン散乱強度変化から平行と直交方向を決めておきます。実際的にはどちらか片方だけ決めればいいです。私の理解では今回の設定では1/4波長板を2回通過するために平行と直交位置は1/4波長板がない場合と逆転するようです。そのためカイラルフォノンの測定に必要なEモードの観察は平行位置で行ってます。直交(クロス)位置だとAモードが卓越します。 **テスト測定(2025/02/13) 水晶単結晶でテスト測定をしてみました。使ったのはクリスタルベースから購入した右水晶と左水晶の薄板で、c軸に垂直にカットされています。c軸方向から円偏光(レーザー)を入射してます。大石ら(2024)によると、右円偏光と左円偏光で測定した水晶のラマンスペクトルでEモードにシフトが見られます。695 cm-1のEモードで最も大きな1.5 cm-1の差があることが示されています。そして右水晶と左水晶ではシフトの向きが逆になります。 テスト測定の結果を下に示してます。上側が左水晶で下が右水晶、赤線が右円偏光で青線が左円偏光による測定結果です(波数をちゃんと校正してないのでピーク位置が多少ずれています)。大石ら(2024)による報告と同様、シフトが見られました。左水晶と右水晶では逆方向にシフトしていることも分かります。示してませんが、他のEモードでもシフトが観察されました。一方、僅かに出ているAモードでは測定誤差内でシフトは見られませんでした。 #image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/quartz-695cm-1-peak-shifts.png,center,33%) **応用 - キラリティの判別 このシフトを使うと右水晶か左水晶かを判定できます。水晶球で試してみました。[[エアリースパイラル観察装置]]で書いたように水晶球の左か右かはエアリースパイラルの向きで決められます。使った水晶球は右水晶でした。同時にc軸方向も分かります。c軸方向を上に向けて測定してみました。上の測定結果と比べると、右水晶で見られた向きにシフトが観察されました。なのでこの水晶球は右水晶と判定されます。水晶球の場合はエアリースパイラルでも左右は決められますが、あまり結晶面の出てない結晶や小さい結晶などでもこの方法だと非破壊で左右を決められることができます。 試しにc軸方向から傾けての測定もしてみましたが、そうするとEモードピークが弱くなり、逆にAモードピークの強度が強くなり、シフトを見ることが難しくなりました。予想としてはcos関数的にシフトが小さくなるはずですが。 私自身はクリストバライトなどの螺旋構造を持つ鉱物で測定してみようと計画しています。ちょっと難しいのは水晶のように大きな結晶はなく、またキラリティを他の方法で判定することがしづらい点です。 まだこの程度の測定しか出来てませんが、装置は共同利用で使うことができます。また見学も可能です。 ちなみに使ったクリスタルベースの水晶薄板(0.5 mm厚)を偏光顕微鏡で見てみました。旋光性があるので、0.5 mm厚だと波長でも変わりますが、10度程度偏光面が回転します。右水晶では時計方向に、左水晶では反時計方向に回転します。アナライザー側の偏光板を回してみたところ、それぞれ8度ほど逆方向に回転したところで消光し、確かに右水晶、左水晶であることを確認できました。 文献:大石ら(2024) https://doi.org/10.1103/PhysRevB.109.104306 (ペイウォールで読めない方はarXivの方を探してください)