ネオンランプのスペクトル の変更点


#author("2024-03-08T08:33:11+09:00;2024-03-08T08:32:14+09:00","default:masami","masami")
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*ネオンランプのスペクトル測定(2020/03/29)(追加・編集2022/10/15) [#f0c18ab9]
RIGHT:&ref(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/OUOperatingGrant.png);
**前書き
 研究室では安い電気パーツのネオンランプを分光器の横軸(波長または周波数)の校正に使っています。ネオンランプからは輝線が沢山出ていて、その波長が精度良く決まっているからです。ただ、これまで研究室で使っているネオンランプ(確かRSコンポーネンツから購入)は、どれもネオンの輝線のみで、他の希ガスが入ってません。製品によってはアルゴン等の他のガスも含まれているようです。ダイヤモンドアンビルセル高圧装置でルビーやSm:SrB4O7などの蛍光の圧力依存性を使って、圧力決定するような場合には、蛍光が出る680-710 nm付近での測定を行います。ネオンだけだと波長校正に使える輝線の数が少ないのですが、他の希ガスの輝線もうまく使えると、より精度よく校正ができます。そこで市販のネオンランプを買って、そのスペクトルを測定して、他の希ガスが入っているかどうかを調べてみることにしました。今回はサトーパーツのBN5701シリーズの4種(透明、橙、赤、緑)のネオンランプを測定してみました(右の写真)。1個数百円で購入できます。緑は少し高くなります。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/Ne-lamp_SatoParts.png,right,40%)
 以前はアルゴンレーザーを使っていたので、そのプラズマライン(こちらも波長が精度良く知られている)を波長校正に利用してましたが、長年働いて引退して、固体レーザーになってこの手が使えないので、ネオンランプを校正に使うようになりました。アルゴンレーザーにはいくつか利点がありました。発振波長が既知であることで、プラズマラインとの相対波数が直ちに計算できることです。これはラマン用途には非常に便利です。固体レーザーでは発振波長自体を予め求めておく必要があります。現在使っているレーザーでは出力で発振波長が変化するので、その波長依存性を調べておく必要がありました。
*サトーパーツのネオンランプスペクトル測定
 他のページでも紹介している顕微ラマン分光器を利用して、試料部に点灯したランプを置いて、(ルビー蛍光に近い)700 nm付近を測定しました。ネオンランプは買ったそのままで、色のついた前面のレンズ部分を通して測定してます(後で簡単に色付きレンズ部分を外せることが分かりましたが)。そうして測定したスペクトルを下に示します。透明(クリア)、橙(オレンジ)、赤はほぼ同じスペクトルで、アルゴンが少し混ざっていることが分かります。多分、使っているネオン管自体は同じなのでしょう。アルゴンの輝線はネオンよりはかなり弱いですが、校正には十分使えそうなので、現在使っているネオンだけのネオンランプと交換しました。
CENTER:&ref(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/Ne-lamp-spectra_SatoParts.jpeg);~
*緑のネオンランプの謎
 実は緑のランプは他の色のネオンランプとは違って、発生する紫外線を使って、内部に塗られた蛍光塗料により緑色に光らせています。そのため、これに対応するブロードなピークが緑色の領域で観察されました(一番下のスペクトルを参照)。ただ、赤い700 nm領域までこのブロードなピークは伸びてません。ネオン自体は紫外線をほとんど発生しないので、もっと重い希ガスが入っているはずです。実際、緑のランプには、赤色等のランプにはない輝線が見られました。"Optical Emission Lines of the Elements"という重い本で波長を調べてみると、それらの輝線はキセノンで同定できました。ネオンの輝線はもちろんありましたが、アルゴンの輝線は観察できませんでした。緑のランプには、ネオンとキセノンが入っているようです。蛍光体が塗ってあるので、ランプ側面から光が取れない、500~600 nmではブロードなピークの影響で使えない等の問題も予想されますが、それ以外の領域では、キセノンのスペクトルを安価に測定できることができるため、このランプも有用かもしれません。実際測定してみると、488 nm付近より短い波長では蛍光の影響はほとんどありません。488 nmより長波長側でバックグラウンドが上がっていくことが見られました(一番下の図参照)。実用上は色付きレンズ部分を取り外した方が強度が上がるはずです。"Optical Emission Lines of the Elements"に載っているキセノンの波長(空気中)を使って、今回同定したものは(697.618, 699.087, 701.902, 704.737,704.744,711.905, 714.903 nm)です。上のスペクトルには他にもいくつかキセノンらしい輝線があるのですが、ネオンの輝線と近い、ちょっと文献値とずれる等の理由で同定できてません。なお、上に示したスペクトルのキセノン位置が少しずれている様に見えるのは、この図のスペクトルは横軸を真空中のネオン輝線で校正しているからです(研究室では真空中の値を普段校正に使ってます)。"Optical Emission Lines of the Elements"には空気中の値が載ってます。真空中の波長は、空気の屈折率の波長依存性の経験式を使って、換算することができます(「ラマン分光法」濱口、岩田)。ネオンの輝線の波長については、"Optical Emission Lines of the Elements"にもちろん載ってますが、「ラマン分光法」濱口、岩田にもまとめられてます。
 その後、校正用に使うためにバラそうとよく見ると、ケースの2箇所についている出っ張りを押し込むと、上部ケース部分が簡単に外れることに気づきました。これでネオン球部分が露出できます。そうやって2つ校正用のネオンランプを作りました。その写真を[[ちょっとした自作]]に載せてます。
 下に緑ランプの488 nm付近のスペクトルを示します。これは横軸が488 nmからの相対波数ですが、各ピークに真空中での波長を書き込んでいます。蛍光体のせいで長波長側(緑側)でバックグラウンドが上昇します。凹んでいるのは488 nm用のラマンフィルターのためで、そこが488 nmになります。比較的ピークがあるので、最近は488 nmレーザー自体の波長を決める時の校正や低周波数ラマンの校正に利用しています。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/NeXe-488nm.png,center,80%)