チューナブルバンドパスフィルター の変更点


#author("2024-04-23T09:07:56+09:00;2024-03-09T14:06:28+09:00","default:masami","masami")
#author("2024-04-23T09:10:43+09:00;2024-03-09T14:06:28+09:00","default:masami","masami")
*チューナブルバンドパスフィルターの自作(2016/12/15) [#q0ee8962]
**前書き [#s935638a]
(以下ではサーボモーターを使ってましたが、現在ではステッピングモーターに変えて、より高精度に制御できるようになってます)
 [[ラマンイメージング顕微鏡の試作]]の方に書いているように、ラマンイメージング顕微鏡を自作しようと考えているのですが、その重要な要素として透過波長領域が狭いバンドパスフィルターで、その波長が自由に変えられるものを探していました。しかし適当な価格(数十万以内)で必要な性能のものが見つかりません。色々探している時にSemrock社のVersaChromeチューナブルバンドパスフィルターに目が止まりました。これはフィルターの光軸からの傾きを変えることでバンドパス中心波長が変化するものですが、残念ながらバンド幅が数十nmあって、ラマンイメージング用途には広すぎます。しかし立ち上がりの部分は他社のフィルターよりもシャープです。そこで閃きました。このフィルターを2つシリアルに使って、わずかに角度をずらせると、このフィルターのバンド幅よりもさらに狭いバンド幅のフィルターとして使えるのではないか?検索すると既に全く同じアイデアが公表されてました。残念ですが、このアイデアが実用的であることが分かりました。
 なお多くのバンドパスフィルターは数度程度傾けるとそのバンド中心波長が多少変化することは知られていて、実際にそれを利用することもありますが、VersaChromeのように60 nmくらいも変えられるフィルターは以前ありませんでした。
 最近、これと同じアイデアを使った、波長可変光源が[[デルタ光器:https://www.deltaoptics.co.jp/]]から発売されてます。さらにその後、内部的に同じか良くわかりませんが、同様な機能のものがEdmund Opticsのカタログなどにも出てきています。
 2017年12月1日に岡山大学が開催する知恵の見本市で実物を展示しました。[[ポスターpdf:https://mkanzaki.sakura.ne.jp/pdfs/mihonichi2017.pdf]]
**フィルターの入手 [#w7602d17]
 VersaChromeフィルターのカタログをよく見ると、同様な立ち上がり性能のチューナブルエッジフィルターもあって、バンドパスフィルターを2個使うよりは、ショートパスとロングパスフィルターのペアを使った方が話が単純で、より汎用性がありそうです。残念ながら1つのフィルターで可変できる波長は60 nmくらいで、普通のラマン測定領域から考えると少し狭く感じます。今回はまず試しとして、500-560 nmのショートパスとロングパスフィルターのペアを[[オプトライン:https://www.opto-line.co.jp/]]から購入しました。励起レーザーには488 nmを予定しているので、これだと550 ~ 2600 cm-1くらいのラマンでの振動数をカバーします。含水相などのOH伸縮振動(3500 cm-1前後)も見たい私にはちょっと微妙です。OH伸縮振動や低周波数が必要な場合は別の周波数領域のフィルターペアを用意する必要があります。または、レーザー波長を変える。440 or 450 nmのレーザーを使えばOH伸縮領域までいける。
**フィルターの回転方法 [#w57996bf]
 さて、バンド幅および波長を自由に変えるためには2つのフィルターを独立に回転させる必要があります(バンド幅固定なら、1つのモーターでも可能かと思いましたが、どうもそう簡単ではないようです)。そのためにサーボモーターを使うことにしました。サーボモーターを使った理由は以前に顕微ラマン装置の回転式NDフィルターの制御で使った経験があったからです。また、その時は秋月電子通商のコントローラーキットを使いましたが、秋月電子通商よりデジタルサーボモーター3個を制御できるコントローラーキットが新たに販売されていたので、コントローラー1つで制御できるため好都合だったこともあります。そこで秋月でコントローラーキットとデジタルサーボモーター(Savox SG-0351)2個を購入しました。モーター自体の仕様にもよりますが、私が買ったモーターはコントローラーの仕様とも考えると、回転角を約0.2~0.3度で制御できるはずです。またモーターをソーラボのケージに接続できるようなアダプタ板を自作しました。出来上がったものが下の写真。コントローラー、アダプター板等については[[ちょっとした自作]]にもう少し詳しく書いてます。
(しかし、サーボモーターでは少し精度が悪いことと、多少振動することがあって、その後ステップモーターを使ったものに変更しています。最後の方参照)
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/homemade_BPF.png,center,80%)
**性能チェック [#p6a35bf3]
 さて分光器を使って、作成したチューナブルバンドパスフィルターの簡単な性能チェックを行いました。入射光には緑のLED光源を使ってます。これは540 nm付近を中心に100 nmくらいのブロードなスペクトルを持ってます(下図の緑カーブ)。これに作成したフィルターを適用してみました。青色で示したカーブは2つのフィルターの回転角度をまだ調整中の状態で、透過する部分(バンドパス)の幅が広いのですが、2つのフィルターにより元のブロードな分布を左右で切っていることが分かります。右側はショートパスフィルターにより、左側はロングパスフィルターに切られています。これをさらに追い込んで、なるべく細いバンド幅になるように調整したものが、赤色のカーブです。これで1.5 nmくらいの半値幅となります。当然多少透過率が落ちます。追い込むのは1 nmくらいが限度で、それ以下の半値幅は透過強度が低くなるだけなので実用的ではありません。これはSemrock社提供のデータから予想される性能と一致してます。とりあえずこの程度(半値幅1.0~1.5 nm)の性能がでることが分かりました。これはラマンにすると、30~45 cm-1程度の半値幅になります。区別したいラマンピークが他のピークからそれ以上離れている場合には十分使えることになります。これを使った装置については[[ラマンイメージング顕微鏡の試作]]に書いてます。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/tbpf-spectrum.png,center,80%)

 ラマンで使うためには、測定した波長または振動数に対して、フィルターを適切に回転する必要があります。そのために校正(エッジ波長とサーボモーターの回転角度の関係)しました。その結果を見ると、角度に対してエッジ波長は中央部では比較的リニアですが、両端でリニアからずれてきます。少しfitが悪いのですが、とりあえず波長(と半値幅)を指定すれば、2つのフィルターをどう回転させればいいかが分かるようになりました。これを使って設定をして、実際ピーク幅が1.0~1.5 nmになっていることをいくつかの波長で確認しました。fitが悪いので、波長が特に両端でずれてくるのが現在の問題です。今後、より丁寧に校正を行う予定です。
 最近の校正では、バンド幅が1-2 nm程度になるように2つのフィルターの角度を調整して、ブロードな波長を持つ光源を測定して、透過光のピーク位置と半値幅を求め、各波長におけるそれらとモーターの回転角度の関係を求めてます。どちらもリニアではありません。現在作成中のプログラムでは半値幅の角度依存性も補正してます。
 下の写真は校正をしているところ。右上が分光器でファイバーで入力するようにスリットの前にコリメーション用の自作光学系が付いてます。左下にサーボモーターコントローラ(ポテンショメータに変えて、黒いフロントパネルを取り付けた)があります。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/tbpf-calib.png,center,80%)
**その後の改造 [#p1f9af81]
 キット付属の可変抵抗では微妙な調整が難しいので、より精密なポテンショメーターに交換して、この点は改善されました。また、可変抵抗/ポテンショメーターの回転に対して反時計方向側はスムーズに追従するが、逆側はそうではありません(コントローラーのせい)。精密な調整は片側からする必要がある。これはPCからDA変換器を使った時にも生じました。どうも微小な変化の場合にその変化が片側からは検出できてないようです。PCからの場合、片側の方向については一度大きめにずらせてから戻すとうまくいきました。反対側はその必要はありません。
 最初、上記の写真のように2つのフィルターを逆方向に回して、光軸のずれを補正するような配置を取っていましたが、これだとバンドパスの半値幅を絞った時に透過光が均一の強度で透過していないことに気づきました(つまり画面で半分が暗くなる)。これはイメージング用途ではあまりよくありません。そのため、現在は同じ方向に回すように変えました。これだと問題はないのですが、やはり光軸のずれが気になります。イメージング用途だと問題はあまりないと思いますが。
 配線を変えて、両方共ポテンショメーターの回転と同じ方向にフィルターが回転するようにしました。また、フィルター取り付け位置を変えて、フィルターが光軸と平行になれるようにもしました。これはフィルター外したのと同じ状況にするために必要となります(フィルター断面が視野にかぶるが普通問題にはならない)。これは全ラマン散乱イメージを観察する場合にこの配置にします。またはフィルターなしの普通の光学像を取るときにも使えます。
 これまではポテンショメーターのつまみを手で回して回転角を変えてますが、現在はDA変換を使ってPCから制御できるようにしました。下の図がそのプログラムのフォームで、Visual Studio 2013で、DA変換器について来たサンプルプログラムをベースに作りました。基本の機能は相対周波数を指定すると、その位置にフィルターを移動させることです。それ以外にも光軸に平行になるボタンも作ってます。波長のスキャン機能も付けてます。検出器とは連動してませんが、大体どこの周波数で光っているかをチェックするには使えます。また、鉱物の代表的なピーク位置へフィルターを回転させる機能も付けました。下の図は石英のメインピークを選んで、その相対周波数位置へ回転させた状態。しかし、このプログラムのソースが入っていたPCが使えなくなったので、改良のためにまたゼロから作り直しているところ。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/servo-DA-control.png,center,80%)

**まとめ・課題など [#qdd9ca92]
-2017年夏:校正方法など見直して、refineしているところ。制御プログラムも書き直している。
-2017年3月末でほぼ完成。
-ちゃんと計算はしてませんが、かかった費用は40万弱程度です(フィルター2枚、モーター類、ソーラボパーツ込み)。後で、DA変換器を追加。それ以外に制御用PCには中古のLet's Note(Win 7, 4万台)を使ってます。USB2ポート使って、CCD検出器とサーボコントローラを同時に制御しているので、少しトラブルが起こることがある。
-サーボモーターの回転角度が少しふらつくことがあります。ちょっと試してみましたが、これを改善することは簡単ではないことが分かりました。そこでステッピングモーターに変更することに。以下はちょっとした自作で書いた内容をコピーしたもの。
**チューナブルバンドパスフィルターの改造(2021/2/27)
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/geared-pulse-motor.png,right,30%)
***ステッピングモーターのテスト(2021/2/2)
 以前作ったチューナブルバンドパスフィルターを回転させるサーボモーターが静止時に少しフラフラすることと、角度制御をもう少し精度良くしたいので、ステッピングモーターに変更しようと計画。オリジナルマインドで買った中古のオリエンタルモーター製のギア付きステッピングモーター、そのドライバー基板、それとマニュアルのパルス発生器(これは以前別途買っていたもの)、秋月で買った5 Vと24 VのDC電源アダプタを繋いでテストしてみた。5 Vはパルス発生器で使っている。2式あるが、どちらも問題なく動いた。減速比が20で、ハーフステップだと0.018度/1パルスで、サーボモーターよりも回転位置の精度が1桁上がるはず(現在フルステップで使っているので、0.036度/パルス)。また当然フラフラはしない。制御用のパルスはPCからI/Oユニット経由で送って、制御する予定。
***ステッピングモーターの制御テスト(2021/2/5)
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/dual_stepmotors.png,right,30%)
 続いて元々のサーボモーターの制御でも使っていたCONTECのDAQユニットを使って、PCからステッピングモーターを制御してみた。サーボの時はDA変換を使って電圧を変えて角度を制御していたが、今回はdigital output4ポート分を使って2つのモーターに時計方向、逆時計方向回転のパルスを送る。最初、テストで使ったデモプログラムでdigitalのoutputがうまくいかない。ネットで調べると、提供されているデモプログラムではdigital入出力はinputで設定されていて、outputでは動かないことが判明。最初にポートで出力できるようにソフトで設定しないといけないらしい。Visual Studio 2015(大学のライセンスがあったので使っている)でデモプログラムを書き直して、最初に出力できるように設定すると、2つのステッピングモーターが回転できるようになった。
***ステッピングモーター用の取り付けボード加工(2021/2/07)
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/stepmotor_board.png,right,25%)
 2つのステッピングモーターを取り付けるボードを作った。オリジナルマインドで買った黒いポリアセタール板を簡易NCフライスで加工した。モーターの軸が入る穴とモーターを固定する穴、さらにボード自体を光学系に取り付けるためのM4ネジ穴を開けた。モーター取り付けネジとM4ネジで光学系への固定で使うパーツが干渉する可能性をチェックするのを忘れていたが、うまいことに干渉しなかった。写真はとりあえずモーターを取り付けたところ。その後、ケージに取り付けたが、フィルターを取り付ける部分で、モーター軸とフィルター保持部分のアダプターが必要で、それもこれから作らないといけない。
***アダプター作製(2021/2/11)
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/tbpf_20210211.png,right,25%)
 モーター軸とフィルター保持部分を繋ぐアダプターを真鍮で作製して、取り付け。さらにモーター回転の原点を設定するためにリミットスイッチを取り付けた。リミットスイッチはソーラボの穴なしケージボードを4つにカットして、そのうち2つにリミットスイッチを取り付けた。そのためケージの棒に固定でき、横にスライドしてスイッチの位置調整ができる。リミットスイッチの配線とフィルター自体の取り付けがまだだが、チューナブルフィルターの改造のハード部分がほぼ完成。
***モータードライバー用のケース加工(2021/2/27)
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/motor_board_case.png,right,20%)
 ステッピングモータードライバー基板2個を収納できるようにアルミケースを買って、基板固定用の穴、DCプラグ、トグルスイッチ、配線用の穴を開けた。フライスにうまく固定できないので、一部の穴はドリル穴開けとヤスリ加工。基板は横に並べてギリギリ入った。これで電源とモーターからのコネクターを繋げば動くはず。
***完成(2021/2/27)
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/tbpf_20210217_test_plot.png,right,30%)
 光の入射角度で吸収のエッジ位置が変わるショートパスフィルターとロングパスフィルター(Semrock製)を取り付けた。ブロードな光源を使って、エッジ位置と角度(パルス)の関係を校正した。それを元に波長を指定するとその位置にモーターが動いて、~2 nmバンド幅のバンドパスフィルターとして働くようにした。右図は500から550 nmへ10 nm毎移動させて測定したもの。高さが異なるのは光源の強度分布のせい。バンド幅はもう少し狭くできるが、1.5 nmくらいが限度のよう。毎回リミットスイッチで止めてから(原点復帰)、任意の角度へ移動させている。アソビを取るためで再現性はまあ良いが、たまに少しズレることがある。もちろんサーボモーターとは違ってフラフラしない。しかしギヤのためか触ると多少回転するので触ったり振動させないこと。このフィルター対の場合は原理的には495 ~ 565 nmくらいが調整できる範囲であるが、実際的には500 ~ 550 nmくらいで使う予定。
 その後、3年ほど何もしてませんでしたが、2024年4月後半から少し再開し始めました。実際にこれを使って測定できるようにする予定。サーボモーター時に組んでいた光学系はバラしているので再度組み上げる必要があります。下はまずはモーターとコントローラーのテストしている状態。特に問題はないようです。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/tbpf-20240422.png,center,40%)
 光の入射角度で吸収のエッジ位置が変わるチューナブルショートパスフィルターとロングパスフィルター(Semrock製)を取り付けた。ブロードな光源を使って、エッジ位置と角度(パルス)の関係を校正した。それを元に波長を指定するとその位置にモーターが動いて、~2 nmバンド幅のバンドパスフィルターとして働くようにした。右図は500から550 nmへ10 nm毎移動させて測定したもの。高さが異なるのは光源の強度分布のせい。バンド幅はもう少し狭くできるが、1.5 nmくらいが限度のよう。毎回リミットスイッチで止めてから(原点復帰)、任意の角度へ移動させている。アソビを取るためで再現性はまあ良いが、たまに少しズレることがある。もちろんサーボモーターとは違ってフラフラしない。しかしギヤのためか触ると多少回転するので触ったり振動させないこと。このフィルター対の場合は原理的には495 ~ 565 nmくらいが調整できる範囲であるが、実際的には500 ~ 550 nmくらいで使う予定。
 その後、3年ほど何もしてませんでしたが、2024年4月後半から少し再開し始めました。実際にこれを使って測定できるようにする予定。サーボモーター時に組んでいた光学系はバラしているので再度組み上げる必要があります。下はまずはモーターとコントローラーのテストしている状態。特に問題はないようです。PCはWin10のものに変わっている。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/tbpf-20240422.png,center,33%)