エアリースパイラル観察装置 の変更点


#author("2024-08-04T14:43:17+09:00;2024-07-17T11:21:21+09:00","default:masami","masami")
#author("2024-08-24T10:56:18+09:00;2024-07-17T11:21:21+09:00","default:masami","masami")
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*水晶球のエアリースパイラル観察装置(2024/02/18)(改訂2024/08/04)
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/AirySpiralViewer-ver2.png,center,33%)
 展示室用にエアリースパイラル観察装置を作成しました。これはほとんど市販の分光装置用パーツを組み立てたもの(最後に3Dプリンターで作成したものも紹介してます)。エアリースパイラルスコープは「きらら舎」さんのものを既に持っているが、偏光板は回転できない。エアリースパイラルだけでなく、旋光角度も測りたい、1/4波長板を外しての観察もしたいということで今回作成した。旋光角度自体は以前旋光計を作ったことがあるが、今回はその時のパーツをベースに作っている。現在展示室に置いているので、見ることができます(2024/07/17 これは回収して、3Dプリンターで作った装置と入れ替えてます)。
 さらに最近3Dプリンターを入手したので、それで装置を試作しているところです(最後の方)。
**ソーラボのパーツを使って作った装置
 架台には回転マウント、ケージプレート3枚とケージロッド2本を組み合わせて作った(以前はU型ベンチを使っていたが、最近これに変更した)。回転マウントと一番下のケージプレートに偏光板をそれぞれ固定します。この場合回転マウントがあるので、偏光板の向きは気にしなくてもいい。エアリースパイラルを見るだけの目的には回転マウントは必要ない。回転マウントがない時は2つの偏光板を透過した光が最も暗くなるように方向に調整する。
 ソーラボで1インチ径の光学パーツを取り付けられるレンズ筒を売っているので、それにレンズを固定する(付属のリングで固定できる)。レンズ筒にはSM1ネジが切ってあって、それはケージプレート(この場合は回転マウント)に捩じ込んで取り付け可能となっている。1/4波長板もレンズ筒に取り付けている。レンズはf= 50 mm前後が適当かなと思う。回転マウントは360度回転ができ、副尺付きで精密な回転も可能なものを使ったが、副尺なしの方が安い。光源は最初専用のものを考えたが、展示室には偏光実験用にトレース台を置いているので、それを光源として使用することにした。本体をトレース台の上に置くだけ。スマホの真っ白な画面を使うことも可能だったが、スマホ画面のピクセルがレンズで拡大されてちょっと目立つ場合がある。中央のケージプレートにはガラス板を入れていて、水晶球を保持するリングを支えるようにしている。このケージプレートは上下移動できるので、フォーカス合わせに使える。
 平凸単レンズはエドモンドオプティクスで買ったが、偏光板2枚と1/4波長板1枚は美館イメージングで販売されているものを使った。シートで売っているので、そこから25 mm直径の打ち抜きポンチで打ち抜いて、レンズ筒に入れて使っている。シートの一部しか使ってないので、多量に余ってます。同様なものを作りたい方に(私費購入なので)譲渡しますので、必要な方は連絡ください。偏光シート2枚、1/4波長シート1枚のセットで送ります。
 旋光角度(c軸に垂直に進む直線偏光は水晶内で回転する)を測る時は光源側の偏光板の前(下)に589 nmバンドパスフィルターを入れる。この場合、c軸に垂直に切った水晶板を使うことを想定。このバンドパスフィルターはナトリウムD線の波長に対応させている。この波長だと水晶板の厚みに対して、21.7度/mmだけ回転する。なので最初水晶板なしで消光角度を読んで、水晶板を下側の偏光板の前に置いて再度消光位置を読んで、その回転方向と差を求める。試料から光源に向かって観察しているとして、偏光板を右(時計方向)に回転して消光した時は右水晶。逆の場合が左水晶になる。ただ、水晶板が厚い(>4 mm)と偏光方向が90度以上回転するので、回転方向の判定が難しくなる。また、水晶球ではこの測定は難しい。
 旋光の程度は波長によって異なり、短い波長ほど回転する。そのために波長により回転分散が起こる。これを利用すると分光も可能であり、後で紹介するモノクロメーターも原理的には回転分散を使っているが、1つの水晶板ではなく、4枚も使っていて、それぞれの厚みの比が1:2:4:8となっている。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/Airy_spiral.png,right,25%)
 エアリースパイラルを見る時は、観察者側の偏光板の前(下側)に1/4波長板を入れて、その後ろに偏光板を置いて、その後にレンズを入れる(水晶球を拡大するため)。右の写真はこの配置の時のもの。水晶球で焦点が大体合うようにレンズ筒の前にスペーサー用の筒を適当に追加するか取り除く。589 nmバンドパスフィルターは外しておく(付いたままだとモノクロになる)。これで水晶玉を中央のケージプレートの上に乗せて、手で水晶玉を回転して、カラフルなスパイラル(エアリースパイラル)が見える位置を探す。黒いバンドが見えたら、その延長線上を探すとよい。エアリースパイラルが中央に見えるように調整する。渦巻きの向きが中央から外に向かって時計方向に回転しているなら右水晶、逆なら左水晶になる。スパイラルでなく同心円状に見える場合は1/4波長板を少し回転してみる。スマホで写真を撮る時はレンズを外す方がよい。右はこれで撮ったエアリースパイラルで、これは右水晶になる。数珠等用の穴の開いた水晶球でもスパイラルは普通見ることができる。穴あきの水晶球を2つ持っているが、どちらでも見えた。
 水晶球の保持は「きらりビューアー」の時はクリップを自作したが、手で保持して回転させるのは面倒なので、黒いポリアセタール板から簡易CNCで筒状のものを削り出して、その上に置くようにした。これが唯一今回工作したもので、水晶球のサイズに合わせて大小2つ作った。これを真ん中のケージプレートの上に置く。これだと水晶球を手で保持する必要がないので、観察が楽で、スマホでの撮影も容易。
 エアリースパイラルが出現する理由については、大場・大橋による「右水晶と左水晶の区別」で詳しく解説されている。googleで検索するとpdfが見つかる。また、Mineralogical Society of Americaで公開されているSkalwold and Bassettの"Quartz: A bull's eye on optical activity"にも説明がある。こちらもpdfがフリーで入手できます。後者には水晶板の旋光性をうまく利用したモノクロメーター(どちらかというとバンドパスフィルター的に使われていた古い装置)の解説もあり、興味深く読みました。このモノクロメーターが入手できないか探したのですが、見つかりません。共著者のBassett先生はDACによる研究で有名な方。quartz monochromatorについてAmerican Mineralogistに載った[[古い論文:http://www.minsocam.org/ammin/AM37/AM37_158.pdf]]がフリーで入手できます。同じ著者たちによる複屈折の話"Double trouble: Navigating birefringence"もあります。こちらはバイキングの航海法と絡めての話です。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/3Dprinterd_spiral-viewer.png,right,15%)
**3Dプリンターで作る簡易型エアリースパイラル観察装置
 最近3Dプリンター(AnkerMakeのM5C)を入手したので、簡易型のエアリースパイラル観察装置を印刷してみた(偏光板は回転できない)。PLA+白フィラメントを使用。FreeCADというソフトで設計しているが、初心者なのでモデリングはまだ適当(面取りとか細かいことは行っていない)。構造的には上記のものとほぼ同じだが、ネジは難しいので、偏光フィルムや1/4波長板フィルムはリングで押さえて固定するようにした。リングは外径をちょっとだけ大きめに作って、リングに隙間が少し空くようにして、バネ的に固定されることを想定している(350度に設定)。これは一応うまく働いているようだった。レンズ部分はそれ用の筒を作って、穴に嵌め込む形になっている。レンズは直径25 mm、焦点距離50 mmの平凸単レンズで、リングで固定した。上の装置と同様、水晶球は専用のホルダーに載せるようにしている。大きさを考えて2種作った。なので印刷するのは本体、レンズ筒、リング2個、水晶球ホルダー2種になる。右の写真はそれらを組み合わせた完成時のもの。
 FreeCADで設計して、stlで出力。それをM5C専用の印刷ソフト(AnkerMake Studio)で読んで、スライス。一応穴の部分にサポートを入れた。本体と本体以外で印刷して、計2時間弱くらいかかる。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/spiral2.png,right,10%)
 右は最初の試作品で見たエアリースパイラル。試作品はちょっと胴体が長すぎたようで焦点が少し甘い。本体が短くなるように直したものを展示室に置いている。
**有機EL照明を使う
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/EL_light.png,right,20%)
 これまで照明は外光かスマホの画面を使っていたが、前者は風景の映り込み、後者はピクセルが拡大して見えてジャギーに見える問題があった。ちょうどマルツオンラインで有機EL照明(白)が発売されていたので、それを購入した。発光面は15 mm角程度で現在の25 mm直径ベースの装置には少し小さいが試してみた。この照明は直流3 Vで発光するので、手元にあった1.5 Vの電池2本が入る電池ボックス(スイッチ付き)を接続した。これは秋月で売っているもの。EL照明のハンダ端子部分が薄く難しかったが、何とか半田付けした。スイッチをオンにするとちゃんと発光した(右の図)。それほど明るくはない。
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/Airy_spiral_by_EL.png,right,20%)
 これをエアリースパイラル装置の底部に置いて観察してみた。ソーラボパーツで作った方はEL照明が少し小さいことで、スパイラル中央部は問題なく見えるが、周辺部が欠けているのが気になった。一方3Dプリンターで作った方では問題なく観察できた。右の写真は3Dプリンター装置で見たスパイラル。
 有機EL照明をちゃんと組み込むには3Dプリンター版の方はEL照明を収めるような凹みが必要。電池ももっとコンパクトな単4ベースにして、装置の柱部分に固定すればいいかなと考えている。
**エアリースパイラル装置の調整方法
 エアリースパイラルを見ることが始めての時は最初に調整しておいた方がよい。まずレンズと1/4波長板を外す。水晶玉入れずに、2つの偏光板を通った光が最も弱くなるように片方の偏光板を回転させて、その位置で固定する(回転マウントがないとちょっと試行錯誤が必要ですが)。
 次に1/4波長板を取り付けて、まず同様に回転させて透過光が最も弱くなる位置を見つける。そこから約45度回転させて固定する。この位置にあるとちょうど円偏光になる。そしてレンズを取り付けて水晶玉を観察する。渦巻が見えたら、渦巻が最もはっきりするように1/4波長板の角度を調整する。渦巻でなく同心円と暗い十字が見える場合は1/4波長板の角度がずれている。渦巻がはっきり見えない場合はレンズの位置か水晶球の位置を変えてみる。
**ブラジル式双晶のエアリースパイラル
#image(https://mkanzaki.sakura.ne.jp/images/BrazilTwin_AirySpiral.png,center,33%)
 最近、ブラジル式双晶とされる水晶球を2個入手した。本当にブラジル式双晶かどうかはまだチェックできてないが、早速それらのエアリースパイラルを見てみた。これまでの水晶球とは違って、渦巻がかなり歪な形になっており、バンドが途中で切れたりしている。上に示したのはその1つで、一方から見ると左巻きの渦巻のように見えるが(左側)、反対側から見ると右向きのように見えた(右側)。バンドは途中で切れている。ただ、もう1個の水晶球はどちらから見ても左巻きだが、バンドが途中で途切れていた。時間があればもう少し調べてみる。
 エアリースパイラルを観察して、1つ気づいたこと。有機ELや日光を使った場合に比べて蛍光灯を照明に使った時はリングの見える数が多く、かなり外側までリングが続いている。なぜだろうか。コヒーレンス長の関係ではないかと思った。白の有機ELや日光はかなり幅広い波長分布なのでコヒーレンス長が短く、干渉がすぐ終わってしまう。蛍光灯も同じだが、蛍光灯からは鋭い水銀による発光線が出ているので、それらはコヒーレンス長がもっと長いので。
 エアリースパイラルを観察して、1つ気づいたこと。有機ELや日光を使った場合に比べて蛍光灯を照明に使った時はリングの見える数が多く、かなり外側までリングが続いている。なぜだろうか。コヒーレンス長の関係ではないかと思った。白の有機ELや日光はかなり幅広い波長分布なのでコヒーレンス長が短く、干渉がすぐ終わってしまう。蛍光灯も同じだが、蛍光灯からは鋭い水銀による発光線が出ているので、それらはコヒーレンス長がもっと長いはずなので。