SUNSCAN はコンパクトで低価格のDIY太陽観測装置です。普通の望遠鏡とは異なり、太陽面の一部をスリットで切り取り、それの分光を行ない、地球の自転を利用して太陽面をスキャンすることで、特定波長(水素アルファ線など)で見た太陽面画像を得ることができる装置です。望遠鏡、カメラ、制御コンピュータを含みます。自立型で、すぐに操作可能で、wifiネットワークでスマートフォンやタブレットで遠隔操作し、結果を見ることができます。STAROSというフランスのチームにより作られました。STAROSのメンバーにはSolExProメモで書いているSolExの開発者Christian Builさんがいて、SolExを一般向けにより扱いやすくしたのがSUNSCANと言えるでしょう。ハード部分は完成品ではなくて、自分でパーツを集めて組み立てる必要がありますが、既に3Dプリンターで印刷された本体パーツセット、必要な光学パーツをまとめたセットを購入することができます。対物レンズと減光フィルターも込みなので、SolExのように望遠鏡を別途用意する必要はありません。ただ太陽導入のために経緯台か微動付きの三脚が別途必要です。
望遠鏡部分は直径25 mm、焦点距離200 mmの対物レンズを使ってますので、かなりコンパクトです。分光器部分はコリメーターレンズがf=75 mmで、集光レンズがf=100 mmで、回折格子は2400 g/mmのものを使ってます。検出器部分はRaspberry Pi 4B 4GBとそれ用のHQカメラ(Sony IMX477使用)を使います。その制御のためにRaspberry Pi用のOSが提供されています。また、Raspberry Piとはwifiを使って、スマートフォン、タブレットから接続して、アプリから簡単に観察やデータ処理ができるようになってます。装置全体としての完成度は高いです。
作成するために必要な予算は大体20万くらいでしょうか(Sky Watcherの経緯台+三脚込み)。自分でパーツ印刷すると数万円浮きます(3Dプリンターを持っているとして)。経緯台など既に持っているともっと下がります。
3Dプリントパーツは Azur3dprint から購入することもできますが(SolEx Proの場合はここで購入しました)、今回は自分で印刷しました。全パーツのSTLファイルは先のSunscanのサイトにあります。また組み立て方法と調整については同じサイトから詳細なpdfがダウンロードできます。一番大きなケース部分でも20 cm以下なのでほとんどの3Dプリンターで印刷できるはずです。私が使ったプリンターはAnkerMakeのM5Cです。フィラメントにはPETG黒を使いました(PLAは赤外線を透過するのでよくないそうです)。右の写真はケース下部の印刷中。AnkerMake Studioのデフォルトだとフィラメントの温度が230度なのですが、私の場合はフィラメントが一部固まりになったりしてうまく印刷できず、242度に上げて印刷するとほぼ問題なく印刷できました。なお印刷する時に方向があって、どの面を底にするかはSunscanのサイトに示されています。M5Cの場合はAnkerMake StudioでSTLファイルを読み込んだ後で、上側にあるAuto Bedアイコンをクリックすると正しい方向に直してくれますが、正しくない場合は回転アイコンをクリックして正しい方向に調整します。サポートは1つのパーツでのみ必要です。他はなくても大丈夫なようです(AnkerMake Studioでwarningが出る場合がありますが)。また、M5CのAnkerMake Studioはデフォルトではinfill densityが10%となってますが、15%かそれ以上に変える必要があります。これはExpertのところをクリックして、StrengthのところにSparse infill densityがあるので、そこの値を変えます。ただ薄い部品では変更しなくても大丈夫です。そしてスライスを始めます。スライスが終わると次は印刷です。
印刷を開始すると、温度を242度に設定し直します。非常に薄いパーツは印刷直後に剥がそうとすると曲がってしまうので、冷えてから剥がします。実際に印刷すると、内ネジ部分がイマイチなのと、横穴が上下に潰れ気味になるのですが、何とか使えそうなものができました。一番問題があったのがNDフィルターのホルダーとRaspberry Piのスイッチ部分です。前者は最初はNDフィルターがねじ込めませんでした(大きすぎる)。Qualityのところで層の厚さを半分にしてなんとか使えるものができました。後者はダメなままで、なくても困らないので使わない予定です。印刷したパーツを上の写真に示してます(カメラケースパーツは既に組み立てたので映ってません)。本体ケース(上、下のどちらも)が一番時間がかかりますが、1つで7時間くらいかかりました。
パーツが出来るとインサートナットを埋め込む必要があります。インサートナットは真鍮で出来ていて丈夫なので、Sunscanでも多用されています。インサートする場所はマニュアルに説明があります。埋め込み用にハンダごてと専用治具を購入しました(右の写真)。インサートナットをハンダごてを使って加熱して治具を使ってインサートナットを挿入します。インサートナットは沢山必要ですが、十分在庫なかったので一部だけテストで埋め込んでます。残りは注文中で、それらの到着待ちです。内部で使う六角穴付きボルトとワッシャは黒色のものを用意します。それ以外にはSVBONYのヘリカルフォーカサー(SV161)が必要です。
光学パーツについてはShelyak InstrumentsでSunscanに必要な光学パーツセットを販売してます。スリット以外は光学パーツはエドモンド、減光フィルターはSVBONYで購入できますが、今回もShelyak Instrumentsのセットを注文しました。なお、スリット単体でも売ってます。今回は9日間で届きました。関税支払いが後から来る予定。
光学パーツセットが届いたので、組み立て。組み立てもマニュアル通りで大丈夫です。まずはM3, M4のインサートナットを30個くらい埋め込む必要があります。光学部品は取り扱い注意で、手袋をして扱いました。またレンズには向きがあります。組み立てでは1つだけトラブルがありました。NDフィルターが3Dプリンターで作ったものにねじ込めません。すぐ外れてしまいます。内径がちょっと大きかったようです。仕方ないのでテープで取りあえず止めています(その後、層の厚さを薄くして一応解決しました)。3Dプリンターで印刷したものでは内ネジがあるものの出来があまりよくありませんでした。
それで一応完成しました。カメラは回転しないようにきちんと固定する必要があります。スリットの回転を調整するためにカメラを回転するとリボンケーブルが板バネのように働いて、調整しても元に戻ることがありました。完成したものの写真を下に示してます。調整があるので上蓋はネジで固定されていません。
使うバッテリは「Pisugar 3 Plus Portable 5000 mAh UPS Lithium Battery Power Module」なのですが、私は間違えて「Pisugar S Plus Portable 5000 mAh UPS Lithium Battery Power Module」を買ってしまいました(名称ちょっと紛らわしいです)。形状、電流電圧仕様が同じなので今のところ繋いで問題なく使えています。またPisugar 3の方が高機能なようです(ただPisugar Sは少し安かった)。Sunscanアプリのホーム画面で%表示されてるのがバッテリ残量のようです。PiSugarの製品情報はgithubのwikiに置いているというちょっと変わったメーカー。なお、SunscanではバッテリのCustom ButtonをPi4Bの起動ボタンとして使ってますが、私の場合(Pisugar S)は基板上のAuto startup SWが届いた状態でONでした。このままだとCustom Buttonを押しても起動しません。Auto startup SWをOFFにするとCustom Buttonを押すことで起動するようになりました。また、SunscanアプリからSettingのところでPi4Bをshutdown, rebootできるようになってます。
Raspberry Pi 4B 4GBは既に持っていたのでそれをそのまま使いました。HQカメラ(Cマウント)はなかったので買いましたが、あまりどこも在庫がないようでした(M12マウント用はあるのですが、そのまま使えません)。その後Switch Scienceに同じもので、Pi5用ケーブルも添付されているものが入手できるようになってました(2024/12/10)。SunscanではバッテリでPi 4Bを動かします。バッテリを使うとSunscanからは1つもケーブルが出てないので、野外では特に便利に使えるようです。マイクロSDは128 GBのものが必要です。Class 10, U3 V30かそれ以上のもの。これはPi 4Bで使えるマイクロSDをウェブで検索した方がいいかもしれません。Raspberry Pi 5は使えるようなのですが、一部ソフトで不具合が出ます。またバッテリも5対応のものはまだないようです。
Sunscan自体での測定はまだですが、SolExのページの方で紹介したように、既にRaspberry Pi 4BにSunscan OSをインストールしてSolExを使って観察をテストしました。スマートフォンにもSunscanのアプリを入れると、Raspberry Pi 4Bとwifiで接続できて、画像を撮ることができます。実際太陽画像も撮ることができています。
Sunscan OSを動かすのは簡単で、まずは マニュアル 通りにRaspberry Pi ImagerとSunScan OSをPCにダウンロードして、ImagerをPCで動かして、Sunscan OSをマイクロSDメモリに書き込みます。そのマイクロSDメモリをPi 4Bに挿入して、カメラを接続して、Pi 4Bに電源を繋いで起動します。Pi 4Bには起動スイッチはありませんが、バッテリを接続した場合にはバッテリ側の起動スイッチが使えるようになるはずです。
次にiPhoneにSunosアプリをApp Storeからダウンロードします(Android版もあるようです)。wifiでSunscanに繋いで、iPhoneのSunScanアプリを起動すると、firmwareのupdateをするように言われるので、一度wifiをインターネットに繋ぎ直してfirmwareをダウンロードします(自動)。1.7から1.9へアップデートされました。再度wifiでSunscanに繋いで、iPhoneのアプリを起動して、Connect Cameraをタップします。左端の上から2つ目のアイコンをタップするとカメラ画像が見られます。ただしアプリの使い方についてはあまり説明がありません(調節のマニュアルで調節のための説明がありますが)。
なおHQカメラとPi 4Bはリボンケーブルで繋がっているため取扱に注意が必要です。SunscanではPi 4BのケースがSunscanに取り付けられるようになっています。
SunscanではSky WatcherのAZ Pronto経緯台にVaonisのVesperaの三脚を使ってます(これ結構高いです)。経緯台に固定できるようにSunscanの底にdovetail式のアダプタを3Dプリンターで作って取り付けます。しかし私は既に持っているマンフロットの微動三脚を使います。Sunscanの底面には1/4カメラネジが2つあります。その片方を使って三脚に固定できました。
これも調整用マニュアルがpdfであります。コリメートレンズの調整がちょっと面倒でした。なぜかというと調整するためにはスリット画像を見ないといけませんが、そのためには回折格子のある上蓋を被せる必要があります。しかしそうするとコリメートレンズの移動が直にできません。蓋を開け閉めして、少しづつ焦点位置を変えてはスリットの観察を繰り返す必要があるようです。これはSolExにはない問題です。
このコリメートレンズの調整が最初うまくいきませんでした。その理由はゴーストをスリットイメージと取り違えていたからです。回折格子を回していくと0次反射の付近でスリットイメージのゴーストと思われるものが一対見られました(なので計3回明るい帯が現れます)。ゴーストを使ってはフォーカス調整ができません。本当のスリットイメージは3つのうち真ん中のものです。それを理解するまで時間かかりましたが、分かると調整は問題なくできました。この点については調整用マニュアルには記載がありませんでした。そして太陽に向けて対物レンズのフォーカス合わせもできました。しかし雲が多くなってきたので太陽像の観察は断念…
まだSunscan自体の完成前にSolExを使ってSunscanの撮影の手順は大体理解しました。まずスリットに太陽像を導入して、Halpha線をカメラ側のヘリコイドでハッキリするように合わせます。Sunscanの側面には簡易ファインダーがあるので、それを使います。実はスリットに太陽が来てなくてもフラウンホーファー線は見えるのですが、太陽像がスリットに来ると強度が圧倒的に違うのですぐ分かります(ゲインは最初1にする)。Halpha線が水平になるようにHQカメラを回転します(この時、グリッドをタップして十字を出しておくと合わせやすい)。Halpha線はドップラー効果のために場所によって上下に少しずれていて、このウネウネがよく見えるのがベストなフォーカス位置となります。時々上下に走る黒いバンドは黒点によるものです。そして左右の太陽の縁がはっきりするように望遠鏡側のフォーカスを合わせて、Halpha線の場合は赤のチャンネルにして、強度が飽和しない程度にゲインと露光時間を調整します(スマイルマークになればOK)。露光時間の範囲はアイコンを長めにタップすると変わります。そして右側にあるクロップアイコンをタップ。上下矢印アイコンをタップして、Halpha線がクロップした領域のほぼ中央に来る様にします。そして三脚(または経緯台)の微動を使って太陽の進行方向の少し前に持っていきます(フラウンホーファ線が消える)。そして録画ボタンをタップします。縁のプロミネンスなどが見えるので、太陽の端よりはもっと前からスキャンを初めて、太陽の端が通り過ぎてもしばらく待つ必要があるそうです(なので実際は3ー4分スキャンする)。この辺りの操作方法は こちらのページ からリンクしているyoutube動画を見るといいです。
スキャンを終えるには録画ボタンを再度タップします。次に左側のサムネールのアイコンをタップして、そこで撮った画像(画像自体はまだ出てませんが)の矢印をタップしてしばらく待つと画像処理された画像が3つ表示されます。これらはiPhoneにダウンロードもできます。さらに画像処理を後でカスタマイズすることもできます。そちらの方が処理画像の種類がもっと多くて黒点の画像などが追加されますが、処理には1分程度かかります。黒点画像はHalpha線ではなく、その近くの明るい部分の強度を画像化しているようです。結構難しいのはスキャンの途中で太陽がスリットからはみ出さないようにすることで、これにはSunscanを適切に回転させておく必要があります(スリット長手の垂直方向と太陽の進行方向を一致させる)。またスキャンの最初は太陽面の進行方向の少し前に持っていく必要がありますが、マンフロットの微動付き三脚で一応可能でしたが、操作性はあまりよくないので、あれば経緯台の方がいいでしょう。
まだよく理解してないところですが、そうやってSolEx+Sunscanで撮った太陽像(raw画像)は丸くありません。処理で丸くしてくれるのですが、丸く撮るには撮影時の露光時間の調整が必要です。そのあたりはSolExの方に丸くなるための 計算式 が載ってます。私の計算ではSunscanでは74 msになりましたが、Sunscanが完成したらそのあたりを試してみます。
処理した画像はSunscanアプリからダウンロードできますが、元の.serファイルなどをダウンロードするためには、まずSunscan OSにwifiでアクセスして、スマートフォンのウェブブラウザで http://sunscan.local にアクセスすると各種データファイルがダウンロードできます。