(今日(2024/11/15)検索していたら Sunscan という新しい装置が別サイトで発表されていることに気づきました。こちらは望遠鏡に取り付ける装置ではなくて、D25 mmの対物レンズを含んだシステムで、それだけで太陽面の観察ができ、制御や太陽像の観察はwifiを使ってスマホやタブレットで出来ます。太陽面のスキャンは自転を利用しますので3~4分くらいかかります。観察ではRaspberry Pi 4Bとそれ用のHQカラーカメラユニット(Sony IMX477使用)を使っています。SolEx同様に光学パーツセットと本体3Dプリントパーツを購入することが可能です。下のSolExのパーツと同じメーカーで、既に販売してました。もちろん本体部分は3Dプリンタで自分で作ることも可能。そのサイトのFAQにはSunscanをSolExで使えるかとの質問に答えはNOとなっていたのですが、これは今試してます。最後の方をご覧ください。またSunscanメモのページも作りました。)
最近の天文ガイド2024年11月号に太陽用分光器SolExの記事が掲載されていました(短期連載で12月、1月号にも載ってました)。SolExはフランスのChristian Builさんが開発された太陽用の分光器で、それを超狭帯域フィルターとして使って、さらに太陽面をスキャンすることで特定波長での太陽面画像を再構成することができます。特徴としては3Dプリンターで本体を作成できるようにしていることで、比較的安価に製作できることです。また星用のStarExもあります。さらにウェブで詳しく調べてみると汎用の分光装置としても使えそうな感じがあったので購入してみました。なのでこのページは太陽面観察自体というよりはSolExを実験室の分光器として使うことも目的としてます(後半)。
SolExは通常高速スキャンするために電動の赤道儀が必要ですが、地球の自転を使ってスロースキャンすることも可能で(Sun scan)、その場合は経緯台や微動付き三脚でも可能です(もちろんあまり焦点距離が長くない場合)。私は電動の赤道儀を持ってないので、後者で画像取得を試してます。電動経緯台でも高速スキャンはできると思うのですが、試したことはありません。
なお正確にはSolとExの間にアポストロフィが入るのですが、このwikiではアポストロフィがあるとエラーになるのでSolExと記載しています。
私が購入したのはSolEx Proの方です。私も3Dプリンターを持っているのでSolExのオリジナルバージョンを印刷することは多分可能なのですが、色々と難しいことがあるようなので完成品をAzur3dprintから購入しました。230ユーロだったと思います。なお、初回購入は割引があり、またDarkSkyGeekのStarEx Proのyoutube動画の最後に割引のお知らせがあって、そちらも合わせて利用可能だそうです。ただこれはStarEx ProだけなのかSolEx Proにも適用可能なのかちょっと分かりませんでした。私は注文後にその動画を見たのでこの割引は試していません。
SolEx ProはProでないものに比べてネジ部分にアルミ製パーツを使うことで丈夫になっていて、スリット側のフォーカス調整機構が付き、材質もPETGよりも熱に強いフィラメントを使っているなどの各種改良がなされています。この辺りが自作することを躊躇する理由です(ただその後、Sunscanを自分で印刷して自信を付けて、SolExのVer2は印刷しました)。また、内側で使っているネジが黒い艶消しになってました(DarkSkyGeekの動画では黒くなってないので、これはごく最近の改良のようです)。到着時に関税5200円取られました(これにはSolEx Pro以外のものも含まれています)。届いたパーツを右側に示してます。紙の組み立て説明書は付属してませんでしたが、Azur3dprintのSolEx Proのページから組み立てと調整のpdfがダウンロードできます。Pro用ではないのですが、特に問題はありません。なお自作する場合、PLAフィラメントは赤外光を透過するため使わない方がいいそうです。PETG黒の使用が推奨されています。
今回は購入しましたが、その後Sunscanの方は自分で本体を印刷したので、もしもう1つ作るなら3Dプリンターで自作しようと思ってます。実際その後、SolEx Ver2を印刷しました。こちらはPLA+で印刷したので分光器専用で使う予定です。
光学パーツについてはShelyak InstrumentsでSolExに必要な光学パーツセットを販売してます(405ユーロ)。こちらも購入しました。関税は8000円でした。スリット以外はエドモンド、ソーラボなどでも入手可能ですが、ShelyakのレンズはSolExに最適化されているようです。右に届いたパーツの写真を示してます。アクロマートレンズ2種、10ミクロンスリットと2400 g/mmの回折格子。
スリットは蒸着されていて、斜めに取り付けるようになってます(取り付けパーツごと売られている)。これは多分太陽光をそのまま対物レンズ側に返さないためと、StarExではオフアキシスのミラーをもう一個取り付けて画像を見るためだと思われます。
SolExを完成させるためには以上以外にCMOSカメラ、ZWOのヘリコイド、減光フィルター(望遠鏡に取り付ける)が必要です。カメラによってはさらにヘリコイドとカメラを接続するアダプタが必要になります。
使うCMOSカメラとしてはSonyのIMX178センサーを使ったものが推奨されています。AWOのASI178MMやPlayer OneのSedna-MやNeptune-Mが相当します。太陽分光目的だけで使う場合はモノクロセンサーの方が適してます。ASI178MMは既に入手できないはずです。私はどれも持ってないので、とりあえず持っているPlayer OneのCeres-MかNeptune-CIIを使ってます。Sedna-MとCeres-Mはガイドスコープ用で、先端が1.25インチ径のスリーブ状になってます。これらはZWOのヘリコイドだけでは焦点が合わないので、右の写真のように手元にあったNorthern Cross社のM42/31.7 mmの変換アダプタを追加して接続しています(これはシュミットで購入)。M42の延長筒でもいいと思います。なるべくカメラ先端を奥で保持するためにヘリコイドの目盛5程度にしておきます。
また右の写真には取り付けてないのですが、上の届いたパーツの写真の右下にある赤いリングをCeres-Mに取り付けています。これを使うと焦点は変えずにカメラを回転させることができるので調整に便利です(説明がないのでこのパーツの本来の目的はよく分からないのですが)。Player OneのNeptune-M等の六角形カメラの場合はノーズピースが付属しているので、それを使えばZWOのヘリコイドに固定して焦点も合わせられます。太陽観察目的だとグローバルシャッターの機種が今後使われるようになると思われますが、Player OneだとXena-MがグローバルシャッターのCMOSを採用しています。なお私はTeledyneのBlackflyカメラ(BFLY-U3-23S6M-C)を持っているのですが、それはXena-Mと同じCMOSセンサーを使っているので、時間があればそれでも撮影してみます。
光学パーツの本体への組み込みと調整はそれほど難しくはなく、説明書や youtube動画 通りにやれば問題ありません。動画はProではないのですが、大きな違いはないと思います。Builさんの動画では回折格子の側面を手で触れてますが、側面であっても手で触れない方がいいと思います(側面についた手の油脂が拡がっていくため)。手袋して扱った方がいいでしょう。SolEx ProをMILTOL望遠鏡(f =200)に取り付けた状態を一番上の写真に示しています。
入手してから曇り続きで太陽の観測はできてませんが、曇り空でもスリット側を空に向けるとフラウンホーファー線がちゃんと見えました。この写真をよく見ると埃がいくつも見えるので原因を調べたらCMOSセンサー側についてました。掃除したので今はなくなってます。曇り空でもスリット部のフォーカス調整などには十分です。蛍光灯に向けると水銀のスペクトルが、ネオンランプをスリット前におくとネオンランプのスペクトルが得られました。
SolExの本来の利用はモーター駆動の赤道儀架台に載せて太陽を自動追尾させておいて、スキャンする時は8,16倍速くらいで太陽をスキャンするので10秒程度で測定は終わります。私はモーター駆動の赤道儀を持ってないのでこの方法は使えません。地球の自転を使ったスキャンする方法(Sun scan)があるので、そちらで観察することを考えていました。ただこの方法を説明したyoutubeビデオはどちらもフランス語しかないので、あまりよく分かりません。そうしている間にSun scan専用の装置、Sunscanが出てきたので、今はSunscanのアプリを使って太陽を観察できるようになりました(Sunscan公式FAQでは使えないことになってますが)。
10ミクロン単独のスリットがSolExに使われているのですが(私が買った時のもこれ)、Sunscanには6と10ミクロンが1枚に付いたスリットが使われていて、Shelyak Instrumentsでこのスリット単独で買えるようになってました。ただこれは1枚に2つスリットがあるために少しずらせて設置する必要があるので、もしこの新しいスリットを使う場合はそれに対応したスリットの保持パーツが必要です。このstlファイルも提供されているので自作が可能です。PETG黒のフィラメントで印刷する必要があります。
(Sun scanはSolExでも地球の自転を利用して太陽面をスキャンする方法として取り上げられていますが、ここのSunScanは新しい装置の方です)
本来の太陽観察に戻ります。SolEx Proを購入して1ヶ月もしないうちに Sunscan が出たことを知って、最初微妙な気分になりましたが、SolExでもカメラ部分をSunscanのものに変えればSunscan的に使えるかなと考えました。光学系にちょっと違いはあるのですが(コリメートレンズの焦点距離が80から75 mmへ、結像レンズの焦点距離が120から100 mmへ変更、対物レンズからの光をミラーで反射させている、対物レンズはD25, f=200で固定)、マニュアル等を読む限りSolExでも利用できない理由はなさそうです。(その後調べたらFAQに「SolExでSunscanは再利用できますか?」というのが載っていて、光学系はSunscan専用に設計しているとの理由で答えはNoになってました…)
そう言われても試すのは自由なので分光部はSolEx Proを使って、検出部や測定ソフトはSunscanのものを使って試してみました。私の場合、MILTOL200望遠鏡を使うので、対物レンズの焦点距離的にはSunscanと同じで、太陽像はスリットの長手方向内に十分収まります。SunscanについてはSunscanメモをご覧ください。
今日(2024/11/25)は午後晴れたので、SolEx Pro + MILTOL200望遠鏡でSunscanでちょっと撮ってみました。iPhoneでSunscanアプリを使って撮影します。一応太陽面画像(Halpha)を得ることができました!しかしスキャンの跡がよく分かるジャギーな感じになってしまいました(下の画像)。何度か撮影したのですが、あまり改善されません。今日はシーイングが悪いのかもしれませんが、それ以上に色々とフォーカス調整などがまだ十分できてないのかもしれません。しかし悪いなりに 宇宙天気予報 のページの現在の太陽プロミネンス動画と比べてちゃんと対応していることを確認しました。しかしこちらでは(山陰)、冬は曇りが多くて観測できる日が限られています。特に時間をかけて調整しようとする場合には快晴でないと効率的に進められません。
撮影は、まずスリットに太陽像を導入して、Halpha線をカメラ側のヘリコイドでハッキリするように合わせます。実はスリットに太陽が来てなくてもフラウンホーファー線は見えるのですが、太陽像がスリットに来ると強度が圧倒的に違うので分かります。Halpha線が水平になるようにカメラを回転します(この時、グリッドをタップして十字を出しておきます)。Halpha線はドップラー効果のために場所によって上下に少しずれていて、このウネウネがよく見えるのがベストなフォーカス位置となります。そして左右の太陽の縁がはっきりするように望遠鏡側のフォーカスを合わせて、Halpha線の場合は赤のチャンネルにして、強度が飽和しない程度にゲインと露光時間を調整します(スマイルマークになればOK)。露光時間の範囲はアイコンを長めにタップすると変わります。そして右側にあるクロップアイコンをタップ。上下矢印アイコンをタップして、Halpha線がクロップした領域の中央に来る様にします。そして三脚(または経緯台など)の微動を使って太陽の進行方向の少し前に持っていきます。そして録画ボタンをタップします。縁のプロミネンスなどが見えるので、太陽の端よりはもっと前からスキャンを初めて、太陽の端が通り過ぎてもしばらく待つ必要があるそうです(なので実際は約4分スキャンする)。この辺りの操作方法は こちらのページ からリンクしているyoutube動画を見るといいです。
スキャンを終えるには録画ボタンを再度タップします。次に左側のサムネールのアイコンをタップして、そこで撮った画像(画像自体はまだ出てませんが)の矢印をタップしてしばらく待つと画像処理された画像が3つ表示されます。これらはiPhoneにダウンロードもできます。さらに画像処理を後でカスタマイズすることもできます(そちらの方が処理画像の種類がもっと多くて黒点の画像などが追加されますが、処理には数分かかります)。結構難しいのはスキャンの最初と最後でCMOS画面上からはみ出さないようにすることで、これには望遠鏡を適切に回転させておく必要があります。またスキャンの最初は太陽面の進行方向の少し前に持っていく必要がありますが、これも微動付き三脚ではちょっとやりづらいです(マンフロットの三脚を使いました)。できれば経緯台を使った方がいいでしょう。SunScanのyoutubeビデオではSky WatcherのAZ-Pronto経緯台が使われていました(三脚部分は別メーカーの小型のものを使っている)。
下の写真は今日使ったMILTOL200望遠鏡 + SolEx Pro + SunScanのRaspberry Pi 4BとHQカメラ、マンフロット微動三脚の組み合わせ。Miltolの先端についているのは減光フィルター。ただ適当なものがなかったので、偏光式の濃度可変フィルターを使ってます。
SunScanはハード・ソフト両方ともSolExより使いやすいと思いますが、使うカメラと対物レンズが限定されるため色々試したいユーザーには向かないかもしれません。星の分光にも向いてません。SunScanのハードを汎用分光器として使うなら、対物レンズを無限光学系顕微鏡の集光レンズとして使って、顕微分光用途で使えそうです。カメラはもっと感度のいいものに変えますが。ソフトの方はそのままは使えません。また3Dプリンター用STLファイルも公開されているので、光学装置を作るための参考になると思います。
現在カメラカバーがなくて基板剥き出しだとバックグラウンドが高くなる感じがあるのでとりあえずは黒布で覆ってましたが、Sunscanのサイトにあるカメラカバーのstlファイルを使って、3Dプリンター(AnkerMake M5C)で印刷してみました。M2用の埋め込みネジをハンダごてを使って挿入して、そのネジを使ってカメラケースを組み立てられました。回転固定ネジにアクセスが難しくなりますが、ぎりぎり回せないことはない感じです。
その後、結局Sunscan本体を作ってしまいましたが、そちらについてはSunscanメモに書いてます。
今回Sunscanのアプリを使いましたがそのためにはラズパイカメラを使う必要があります。他の天文用CMOSカメラを使う場合は、普通の手順通りにSharpCapを使ってserファイルを作成して、INTIで処理すればOKです。ただ測定領域ROIは測定したいスペクトルラインの近くだけに絞って、露光時間にも注意が必要です。露光時間が適切でないと太陽像が円からずれます。INTIの処理後に円からのずれが示されるので、それが1に近くなるように露光時間を調整する必要があります。その露光時間で適切な強度になるように減光フィルターの調整が必要になることもあります。
しかし手動のカメラ雲台の場合、太陽自体の導入も手動でやり、追尾しながら、測定自体で色々調整があるので最初は結構大変です。自動追尾できる赤道儀や経緯台があれば追尾に気を取られることなく測定に集中できるので楽だろうと思いました。
分光器としては入射側コリメートレンズf=80 mm、2400 g/mmの回折格子、検出側集光レンズf=125 mmの仕様になりますが、回折格子やレンズ等は交換可能です。ただレンズの焦点距離を変えるためには保持リングを3Dプリンタで作り直す必要がありそうです。分光器部分だけだと光学系パーツが7万円程度で、それプラス3DPの印刷費用になります。ラマン化する場合には、レーザー、対物レンズ、結像レンズ、高感度CMOSカメラなども必要です。
スリット部の端(四角い部分)はM42メスネジとなっているので、ソーラボのM42オスネジ–SM1メスネジのアダプタ(SM1A49)を使うと、ソーラボ標準のSM1使用の光学系に組み込むことができます。光ファイバーのコネクタをSM1のパーツを使って接続すれば光ファイバー入力の分光器としてすぐ使えます(スリットは外しておく)。右の写真はそうやって光ファイバーを接続した状態です。これで光ファイバーから導入した光を分光して画像として測定できるようになりました。
ただよくあるNA0.22の光ファイバーを使うとして、コリメートレンズ80 mm焦点距離だとファイバーからの光はレンズ位置で35.2 mmまで広がるので、半分くらいの光しかレンズを通らないことになります。50 mmくらいの焦点距離レンズを使えばいいのですが、そうすると拡大倍率が2.5倍になるので、それもちょっと困る気がします。まあそちら側のレンズの焦点距離も変えればいいのですが。太陽用には分散方向を縦(CMOSセンサーの短い方向)にしますが、分光器目的では分散方向は横にして横長なセンサーを有効利用した方がいいでしょう。
ソーラボに組み込むもう1つの方法は後で出てきますが、M42メスネジがついている部分を30 mmケージ用の穴を開けたものと交換することです。3Dプリンターで作ってます。これでソーラボのケージに組み込めます。
SolEx Proは望遠鏡に取り付けて使うことを想定しているため、平らな机の上では安定しません。固定ネジ(赤いやつ)が突き出ていたり、取り付けるカメラが大きいと机に当たって邪魔なためです。私はAzur3dprintでKodak Turntableも購入しました。これはSolEx Proの下部に取り付けて、雲台に載せるためのアダプタです(これだけなら3Dプリンターで自分で作れそうですが)。その下にさらに自作プレート1枚を置いて雲台用ネジを使って固定しました。これで机の上でも安定するようになりました。Kodak Turntableを付けて、スリット前にD25 mm対物レンズf = 200 mmを置くと光学的にはSunscanとほぼ同じです。
SolEx Ver2でも同様なプレートを作ってます。1つは雲台ネジありで、これは三脚やソーラボのポストに固定できます(ただし4 mm・カメラネジ変換金具が必要)。もう1つは広めで単に机の上で安定するだけのもの。
右の図は光ファイバー(50ミクロン径)で取り込んだネオンランプのイメージです。これはPlayer OneのNeptune-CIIで撮ってます。SharpCapという天体撮影用のプログラムを使って撮影しました。範囲的には590 nm付近です。保存ファイル形式は天文分野でよく使うfitsを使いました。この画像を1次元スペクトルに変換するためにpythonでちょっとコードを作りました。fitsファイルを処理する場合にはastropyライブラリーがよく使われるので、astropyを使ってfitsファイルを読み込んで、縦方向にスポットがある辺りを縦に積算して1次元スペクトルに変換してみました。積算にはNumpyを使ってます。1行で(範囲を指定した)積算が処理できるので便利です。得られたスペクトルを下に示してます。左側が長波長側になります。そのままだとギザギザするので少し平滑化してます。これもNumpyの関数を使ってます。バックグラウンド処理なしでそのまま積算しているので、スペクトルのバックグラウンドが非常に大きな値になってます。
532 nmレーザーをルビーに照射して生じた蛍光を見てみました。ルビー蛍光の2つのピークが690 nm付近に出ます。100ミクロン径光ファイバーを使ってます。ルビー蛍光法による圧力測定用途にも十分使えそうです。別ページで自作のLittrow型分光器について書いてますが、分解能はそれと同じかもっといいかもしれません。焦点距離が短い割に分解能がよくなっている理由は検出器のピクセルの大きさがSolExの方がかなり小さいからです(約1/5)。もちろんファイバー径がそれよりは遥かに大きいので、十分分解能を生かしている訳ではありませんが、ルビー蛍光自体の線幅自体が広いのでファイバー径を小さくしても線幅はほぼ変わりません。
比較的安く分光器を入手する方法の1つとしてSolEx(Sunscanも)はいいかもしれせん。もう少しきちんとしたものが欲しい場合は、 OpenRaman や同じ人が作っている 分光器 がいいかもしれません。これらはソーラボのパーツを主に使ってます。
ここまで来ると私的にはSolEx Proでラマンスペクトルが測定できるのかどうかが気になります。簡単な顕微測定光学系を組んでみました(上のルビー蛍光もこれで測定)。
その後、SolEx Ver2は自分で印刷して作りました。こちらは太陽には使わない予定なのでPLA+黒をフィラメントに印刷しました。AnkerMakeのM5Cで印刷して特に問題は生じませんでした(M42外ネジのあるカメラ側のレンズ筒は印刷し直しましたが)。印刷後はM4とM3のインサートネジを埋め込む必要があります。
私の目的(実験室での分光)では別のスリットをSolExの外側で使いますので、SolExに用意されているスリットは使いません。コリメーターボックス外側にソーラボの30 mmケージと接続するアダプタを3DPで印刷しました。これは上で述べている直接接続で書いているものですが、SolEx ProとVer.2ではコリメーターボックスの形状が異なるので使えず、作り直しました。これでソーラボのケージを使った光学系に組み込めます。さらに本体底に15 mm厚のプレートも3DPで印刷して取り付けて、それにカメラネジのインサートナットを埋め込んでソーラボのポストで本体を支えるようにしてます(このためにはM4/カメラネジ変換が必要)。本当は1点だけの支持ではバランスが悪いのですが、ケージで別途繋がっているので、とりあえずはこれでもOKでしょう。光学パーツ(アクロマートレンズ2個と回折格子)はソーラボで買ったものを使ってます。回折格子は少し解像度を落とす(観察できる波長幅を広げる)ために1200 g/mmを使います。ただカメラ側のレンズはf=100だとちょっとうまく手持ちのCMOSカメラでフォーカスが合わないことが分かりました。そこでSolEx Proのf=125のレンズと交換しています。SolEx Proの方はf=100でも問題ありません。これは延長筒である程度調整できるためですが、それがVer2ではできません。
下の写真は簡易ラマンで使うためにSolEx Ver2を組み込んだ例です。これはZWOのヘリコイドフォーカサーを使ってます。SVBonyのヘリコイドフォーカサーの方がもう少し安いのですが、長さ的にはもう少し長めになり可動範囲も長めです。SVBonyはSunScanやSolEx Proの方で使ってます。実験室で使うだけならこのようなフォーカサーを使わない手もありそうです。CMOSカメラはPlayer Oneのものです。
下の写真は光ファイバーからの光を分光する場合のSolEx Ver2の構成で、入射部分にファイバーを接続する端子をつけています。前述のようにProで同様のことを行なってます。アダプタでソーラボの30 mmケージが付くようにして、ロッドにケージプレートを固定、ケージプレートにファイバーコネクタを固定してます。ケージプレートは移動できるので、0次反射でのスリット像を見ながらフォーカスを合わせます。ルビー蛍光やラマンも測定できます。波長は光ファイバーで繋いだネオンランプや低圧水銀ランプで校正できます。
その後、3Dプリンターでソーラボの30 mmケージに接続できるようにするアダプタ(望遠鏡と繋ぐアダプタと入れ替える)を作成しました。下の写真で、30 mmケージ用の4本の6 mmロッドが固定できるようになってます(テプラシール貼っているところ)。これでソーラボの光学系と直接組み合わせて分光器として使うことができます。下の写真はVer2の場合で、手前には可変スリットが付いてます(ミツトヨのマイクロメータがついているもの)。
それを使って上のファイバー光学系の時の光学系をほぼそのまま使ってミニ顕微ラマン分光器を組んでみました。一部300x300のブレッドボードからはみ出してます。上の方ではXYZステージがなく、調整で色々と不便でしたので、今回は小さいXYZステージをポストに付けてます。ここでは幅が変えられるスリットをラマン散乱がフォーカスする所に置いています。集光はアクロマート100 mm焦点を使ってます。コリメート側のレンズは焦点距離を100 mmと変えてます。回折格子は1200 g/mmへ変更してます。検出側のレンズも120から100 mmに変えて対称的にしたいのですが、これはVer2ではちょっと難しく120 mmのままです。下の写真が光学系の全体像です。これは最初中央に試料観察用のCMOSカメラが付いていて、それを外したのでキューブの部分が空洞になってます。
可変スリットのいいところは幅を広げておいてさらに0次に回折格子を回転させると、試料像が観察できることです。そこで試料像を見ながらレーザースポットをスリット中央に来るようにダイクロイックビームスプリッターの回転を微調整します。そして測定したい試料を導入してフォーカスを合わせます。その状態でスリットを50~100 micron程度に絞って、回折格子を1次で550 nmくらいにもっていくとラマンピークが観察されました。こちらの方が調整しやすいので可変スリットのこの利用方法は結構いいなと思ってます。スリットを使ってますが、ビーム自体はスポット状なので、ラマン散乱は上下のかなり狭い範囲に出ることになります。
下は2秒露光のCMOS画面。中央から少し左の明るい2つがオリビンの2つの強いピークに対応。右端の縦長の部分がレーザー(0 cm-1)によるもので、その付近が暗いのはラマンエッジフィルターによる減光のため。2つのピークの分離が前より悪いのは回折格子を変えているためで、倍の波数領域が見えてます。