エアリースパイラル観察装置 の履歴(No.5)


水晶球のエアリースパイラル観察装置(2024/02/18)(追記2024/07/17)

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 展示室用にエアリースパイラル観察装置を作成しました。これはほとんど市販パーツを組み立てたもの(最後に3Dプリンターで作成したものも紹介してます)。エアリースパイラルスコープは「きらら舎」さんのものを既に持っているが、偏光板は回転できない。エアリースパイラルだけでなく、旋光角度も測りたい、1/4波長板を外しての観察もしたいということで今回作成した。旋光角度自体は以前旋光計を作ったことがあるが、今回はその時のパーツをベースに作っている。現在展示室に置いているので、見ることができます(2024年4月以降、私は展示室と関係なくなってますが)。
 さらに最近3Dプリンターを入手したので、それでも装置を試作しているところです(最後の方)。

ソーラボのパーツを使った装置

 架台にはソーラボのU型ベンチを使用。その両側に偏光板を取り付ける。ソーラボで1インチ径の光学パーツを取り付けられるレンズ筒を売っているので、それに偏光板を固定する。レンズ筒にはSM1ネジが切ってあって、それはU型ベンチに取り付け可能となっている。下側の偏光板はレンズ筒使わないで、U型ベンチの穴に埋め込むことも可能だった。レンズや1/4波長板もレンズ筒を使って取り付ける。レンズはf= 50 mm前後が適当(上の写真はテスト時のなので75 mmが付いてます)。偏光板の片側は回転マウントに取り付けていて、360度回転ができ、副尺付きで精密な回転も可能なものを使ったが、副尺なしの方が安い。偏光で試料を見る時はこれだけで十分。光源は最初専用のものを考えたが、展示室には偏光実験用にトレース台を置いているので、それを光源として使用することにした。U型ベンチを点灯したトレース台の上に置くだけ。スマホの真っ白な画面を使うことも可能だったが、スマホ画面のピクセルがレンズで拡大されてちょっと目立つ場合がある。
 平凸単レンズはエドモンドオプティクスで買ったが、偏光板2枚と1/4波長板1枚は美館イメージングで販売されているものを使った。安価なシートを売っているので、そこから25 mm直径の打ち抜きポンチで打ち抜いて、レンズ筒に入れて使っている。シートの一部しか使ってないので、多量に余ってます。同様なものを作りたい方に(私費購入なので)譲渡しますので、必要な方は連絡ください。偏光シート2枚、1/4波長シート1枚のセットで送ります。
 旋光角度(c軸に垂直に進む直線偏光は水晶内で回転する)を測る時は光源側の偏光板の前(下)に589 nmバンドパスフィルターを入れる。この場合、c軸に垂直に切った水晶板を使うことを想定。このバンドパスフィルターはナトリウムD線の波長に対応させている。この波長だと水晶板の厚みに対して、21.7度/mmだけ回転する。なので最初水晶板なしで消光角度を読んで、水晶板を下側の偏光板の前に置いて再度消光位置を読んで、その回転方向と差を求める。試料から光源に向かって観察しているとして、偏光板を右(時計方向)に回転して消光した時は右水晶。逆の場合が左水晶になる。ただ、水晶板が厚い(>4 mm)と偏光方向が90度以上回転するので、回転方向の判定が難しくなる。また、水晶球ではこの測定は難しい。
 旋光の程度は波長によって異なり、短い波長ほど回転する。そのために波長により回転分散が起こる。これを利用すると分光も可能であり、後で紹介するモノクロメーターも原理的には回転分散を使っているが、1つの水晶板ではなく、4枚も使っていて、それぞれの厚みの比が1:2:4:8となっている。

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 エアリースパイラルを見る時は、観察者側の偏光板の前(下側)に1/4波長板を入れて、その後ろに偏光板を置いて、その後にレンズを入れる(水晶球を拡大するため)。右の写真はこの配置の時のもの。水晶球で焦点が大体合うようにレンズ筒の前にスペーサー用の筒を適当に追加するか取り除く。589 nmバンドパスフィルターは外しておく(付いたままだとモノクロになる)。これで水晶玉を下側の偏光板の上において(実際には偏光板の上にガラス円板を置いて偏光板が傷つかないようにしている)、手で水晶玉を回転して、カラフルなスパイラル(エアリースパイラル)が見える位置を探す。黒いバンドが見えたら、その延長線上を探すとよい。エアリースパイラルが中央に見えるように調整する。渦巻きの向きが中央から外に向かって時計方向に回転しているなら右水晶、逆なら左水晶になる。スパイラルでなく同心円状に見える場合は1/4波長板を少し回転してみる。スマホで写真を撮る時はレンズを外す方がよい。また、球に周囲風景の映り込みを防ぐ黒いカバーも用意している。右はこれで撮ったエアリースパイラルで、これは右水晶になる。
 水晶球の保持は「きらりビューアー」の時はクリップを自作したが、手で保持して回転させるのは面倒なので、黒いポリアセタール板から簡易CNCで筒状のものを削り出して、その上に置くようにした。これが唯一今回工作したもので、水晶球のサイズに合わせて大小2つ作った。これを下側の偏光板の上に置く。これだと水晶球を手で保持する必要がないので、観察が楽で、スマホでの撮影も容易。
 エアリースパイラルが出現する理由については、大場・大橋による「右水晶と左水晶の区別」で詳しく解説されている。googleで検索するとpdfが見つかる。また、Mineralogical Society of Americaで公開されているSkalwold and Bassettの"Quartz: A bull's eye on optical activity"にも説明がある。こちらもpdfがフリーで入手できます。後者には水晶板の旋光性をうまく利用したモノクロメーター(どちらかというとバンドパスフィルター的に使われていた古い装置)の解説もあり、興味深く読みました。このモノクロメーターが入手できないか探したのですが、見つかりません。共著者のBassett先生はDACによる研究で有名な方。quartz monochromatorについてAmerican Mineralogistに載った古い論文がフリーで入手できます。同じ著者たちによる複屈折の話"Double trouble: Navigating birefringence"もあります。こちらはバイキングの航海法と絡めての話です。

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3Dプリンターで作る簡易式エアリースパイラル観察装置

 最近3Dプリンター(AnkerMakeのM5C)を入手したので、エアリースパイラル観察装置を印刷してみた。PLA+白フィラメントを使用。FreeCADというソフトで設計しているが、初心者なのでモデリングはまだ適当(面取りとか細かいことは行っていない)。構造的には上記のものとほぼ同じだが、偏光フィルムや1/4波長板フィルムはリングで押さえて固定するようにした。リングは外径をちょっとだけ大きめに作って、リングに隙間が少し空くようにして、バネ的に固定されることを想定(350度に設定)。これはうまく働いているようだった。レンズ部分はそれ用の筒を作って、嵌め込む形になっている。レンズは直径25 mm、焦点距離50 mmの平凸単レンズで、リングで固定した。上の装置と同様、水晶球は専用のホルダーに載せるようにしている。大きさを考えて2種作った。なので印刷するのは本体、レンズ筒、リング2個、水晶球ホルダー2種になる。右の写真はそれらを組み合わせた時のもの。
 FreeCADで設計して、stlで出力。それをM5C専用のソフトで読んで、スライス。一応サポートを入れた。本体と本体以外で印刷して、計2時間弱くらいかかる。

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 右は試作品で見たエアリースパイラル。試作品はちょっと胴体が長すぎたようで焦点が少し甘い。本体が短くなるように直したが、まだ印刷してない。次に印刷する時は黒フィラメントに交換してから行う予定。

エアリースパイラルを見る時の調整方法

 適当にいじってみればいいが、エアリースパイラルを見ることが始めての時は最初に調整しておいた方がよい。まずレンズと1/4波長板を外す。水晶玉入れずに、2つの偏光板を通った光が最も弱くなるように片方の偏光板を回転させて、その位置で固定する(回転マウントないとちょっと試行錯誤が必要ですが)。
 次に1/4波長板を取り付けて、まず同様に回転させて透過光が最も弱くなる位置を見つける。そこから約45度回転させて固定する。この位置にあるとちょうど円偏光になる。そしてレンズを取り付けて水晶玉を観察する。渦巻が最もはっきりするように1/4波長板の角度を微調する。渦巻でなく同心円が見える場合は1/4波長板を回転させる。渦巻がはっきり見えない場合はレンズの位置か水晶球の位置を変えてみる。