マイケルソン干渉計で遊ぶ の履歴(No.4)


マイケルソン干渉計で遊ぶ(作成2024/06/28)(更新2024/06/30)

Michelson_GreenLED.png

前書き

 マイケルソン干渉計を作ってレーザーやLEDで干渉縞を作ってみました。実はspatial heterodyne分光装置を試作してみたいのですが、その基本がマイケルソン干渉計であることが主な理由です(spatial heterodyne分光装置では干渉計のミラーの1つまたは2つを回折格子で置き換えます)。
 ソーラボではマイケルソン干渉計を使った学生実験用の教育セットがあって、それで使うマニュアルもダウンロードできます。それを買ってもいいのですが、パーツの在庫は十分あったので不足するパーツのみを入手して、干渉計を作ってみました。こういうのは学生実験でやっておきたかったのですが、学部は物理系ではなかったので今頃やってます。

Michelson-schematic.png

 上の図にマイケルソン干渉計の基本構造を示しています。光源(レーザー、LED)から出た光はビームスプリッターで分けられます。1つは真っ直ぐ進んで、ミラーで反射されてビームスプリッターに戻り、そこで90度反射して、スクリーンへ行きます(もちろんこの時に真っ直ぐ進んでレーザー側に戻る光も存在します)。もう1つのパスはビームスプリッターで90度反射されて、別のミラーで反射されてビームスプリッターに戻り、そのまま真っ直ぐ進んでスクリーンに到達します(もちろんビームスプリッターで反射された光も存在し、レーザー側に戻ります)。2つのビームが重なるように調整するとスクリーン側に来た2つの光を干渉させることが出来ます。同時にレーザー側にも2つの光が戻ってきているので、そちらも干渉が生じるのですが、見づらいので普通はスクリーン側で干渉を観察しますが、こちら側も考慮しないとエネルギーが保存しないとか変なことになります。
 なお、レーザー光源はコヒーレンスが良いので2つのパスの距離が異なっても干渉することができますが、LED等はコヒーレンスが悪いので非常に近い距離にならないと干渉しません。これは一見不便に思えるかもしれませんが、2つのパスがほぼ同じであることを積極的に利用する方法が存在します(低コヒーレンストモグラフィなど)。

マイケルソン干渉計のセットアップ

Michelson_laser.png

 可動ミラーの部分の1軸移動させるところ以外は全てソーラボのパーツで組んでます。ほとんど手持ちのもので済んで、買ったのはレーザー、LEDモジュール、LED素子、スクリーンだけでした。スクリーンはもちろん厚紙とかで代用できます。レーザーも安いものでも使えますが、別目的もあって今回CPS532を買いました。これは532 nmのペン型のレーザーで4 mWくらいの出力です(干渉計目的には明るいのですが、干渉性はよく、ビーム形状が円形なので干渉には都合がいいのです)。またソーラボのパーツでこのレーザーをSM1のレンズ筒などに簡単に組み込めるところもいいのです。右の写真はこのレーザーをマウントしたところを示してます。このレーザーは明るすぎるのでレーザーの前に適当な濃度フィルターを入れた方がいいかもしれません。レーザー遮光メガネはもちろんあるのですが、それをかけるとレーザー自体が見えなくなるので調整、観察ができません…
 LEDについては今回はLEDモジュール(LEDMT1F)を使いました。これはオートコリメーターの作成で使ったのがあるので、LED素子はそれで買ったものを流用しています。LEDについて詳しくはそちらをご覧ください。
 光学系はブレッドボード上でポストとポストホルダーを使って組みました(使ったブレッドボードはネジ間隔が荒いので使いづらいのですが)。ビームスプリッターは持っていたものを使っています(CM1-BS013)。2つのミラーは角度を調整する必要があるので、キネマティックマウント(KM100)に載せています。それらをポストに取り付けて配置します。下の写真が全体像です。

Michelson_allview.png
Michelson_Xstage.png

 さて片方のミラーは移動させる必要があります。そのメカニズムですが、ソーラボにも手動の可動(ミラー)マウントがあって最初それを使っていたのですが(学生実験マニュアルではそれを使うことになっている)、調整ノブに触れるだけでビームが変動するのでちょっと調整が難しく、別のX軸ステージを使っています。これは普通のX軸ステージにミラーの乗ったポストを乗せたものです(ポストとステージの接続は自作のアダプタ)。そしてX軸ステージのマイクロメーターをシグマ光機のマイクロメーター型駆動装置と取り替えてPCから移動を制御できるようにしています。右の写真がその部分です。これだと手で触れないので移動時のビーム変動がかなり抑えられました。この装置とPCからpythonで制御する方法については別のページ:SHOT-602をPythonで制御に書いてます。最小移動は1パルスで0.5 micronになります。ミラー位置は定規等で距離が大体同じになるように配置しておきます(ブレッドボードのネジ間隔が荒いのでこれがちょっと厄介でした)。

干渉計の調整

 調整にはレーザーを使います。LEDで調整するのはほぼ無理です(私には無理)。レーザーをビームスプリッターの真ん中あたりを通るように高さと向きを調整します。ミラーに当たっているレーザーがミラーのほぼ真ん中に来るようにミラー2つの位置や高さも調整します。そしてスクリーンを置いて、ビームスプリッターから来る2つの光が重なるようにミラーの角度調整つまみを動かします。そのままでは干渉縞は見づらいので、レンズをレーザーとビームスプリッターの間か、ビームスプリッターとスクリーンの間に入れます。2つの光がちゃんと重なっていれば、この時点で縞が見えるはずです。見えない場合はミラー角度調整つまみを少しだけ動かしてみます。それでも見えない時はレンズを外して、再度2つの光が重なるように調整します。紙か何かをビームスプリッターのレーザー側(レンズ前)にかざすと同様な縞がこちら側でも見えるはずです(正確にいうと明暗が反転しています)。
 縞が見えたら、縞が同心円状になるように片方のミラーの角度を少し調整します。いくつ明暗のリングが見えるでしょうか。数が多い時は2つのパスの距離がかなりずれています。また縞の明暗も距離が近い方がはっきりしてきます。2つの距離がほぼ同じになるとリングの数が減って、最後には全体が明るくなります(ミラーを少しずらすと暗いバンド1つが中央に真っ直ぐで見えます)。この微妙な調整はPCから10ミクロン単位で可動ミラーを移動させて行いました。私は最初この状態がなかなか見つけられませんでした。

干渉計で遊ぶ(LEDのコヒーレント長)

 マニュアルにはこの干渉計でできる実験が色々と載ってます(レーザー波長の決定、屈折率の決定、熱膨張率測定など)。私の興味はLEDでの干渉なので(それもマニュアルの6.4にあります)、まずは上記のようにレーザーを使ってかなり近いところまで合わせておきます。そうしないとLEDの干渉縞を見ることはほぼ無理です。最初何度か試してダメでした。ソーラボのLEDでは赤LED(LED630E)がコヒーレンス長が比較的長いので(28 micron)、まずはそれを使った方がいいと思います。コヒーレンス長が28 micronということはX軸の移動で14 micron以内まで距離が合った場合にしか縞が見えないことになります(光路で考えると2倍移動するので1/2する)。なので縞を探すためのミラーの移動は数micron単位で行わないと見逃します。
 レーザーで合わせたら光学系はそのままイジらず、レンズを光路から外して、そこにLEDを置いてLEDがビームスプリッターのなるべく近くに来るようにします。そして可動ミラーを数 micron単位で動かして、スクリーンに縞がでるかどうかをみます。手で移動させている場合は落ち着くまで1秒程度待つ必要があります。出ない場合は逆側に移動させてみます。もし見えない場合はレーザーでの調整に戻ります。または探索範囲を広げます。ここは忍耐が必要です。逆にLEDで縞を見つけた場合はその位置でレーザーに戻してみるとレーザーでどこまで合わせておく必要があったのかが体感できます。一番上の写真は緑LEDを使った時のものです。スクリーンに縞が見えています。
 赤LED(LED630E)の縞は14 micron程度の範囲だけで縞が見えました(下の写真)。これはマニュアルに書かれている結果と同じです(同じLED使っているので当然ですが)。緑LED(LED525E)だとそれが7-8 micron、白LED(これは秋月で買ったもの)は4 micron程度でした。コヒーレント長は大体それらの2倍になります。最初から白LEDでやると多分見つけられないと思います。スクリーンの代わりにフォトダイオードを置いて、少しづつ移動させて測定すればもう少し正確な値がでると思います。

Michelson_RedLED.png