Littlow型分光器の製作 の履歴(No.2)


Littrow型分光器の製作

自作する理由

 分解能が高い分光器でかつコンパクトなもの(少なくとも手軽に移動ができるもの)が必要という事情があって、Littrow型の分光器を作りました。分解能が低くて波長範囲が広いコンパクトな分光器は沢山販売されています。また、分解能が高い分光器も市販されていますが、頑丈に作られているため重く、また気軽に移動できるものではありません。またそれらでは回折格子がモーターで回転したり、回折格子を2〜3枚交換できるようになってますが、本目的にはそれらは不要です。比較的狭い波長範囲を分解能高く測定したい場合にはなかなかニッチな市販品がありません。さらに安く、コンパクトなものという要求もあります。適当なものがないので、自作することになりました。
 最近調べたら、Ocean Optics(最近名前変わってOcean Insight)のHR4000でルビー蛍光を測定している論文がありました。最も細いスリットと2400 g/mmの回折格子を選択すると、最大0.02 nmまで分解能が上がるようです。焦点距離は10 cmと短いのですが、CCD検出器の1ピクセルがもっと細くて、今回作ったものと似た分解能になるのだと思います。内部は見たことはないですが、これもCross Czerny-Turner型の分光器だと思われます。
 さらに最近見つけたのは、Light Machinery社のHornet Spectrometerで、これも同程度の分解能があります。こちらは透過回折格子を使ったタイプです。ただその中で使えそうなのは、波長範囲が650-700 nmの機種で、ルビー蛍光に使うにはちょっと範囲が微妙(10数GPa以上だとR1ピークが範囲外に出てしまう)。700-800 nm範囲もあるが、これだと低圧で測れない。分解して回折格子をちょっと回転させられればいいのかもしれませんが。

Littrow型分光器

Littrow-schematic.png

 回折格子への光の入射角と回折角を全く同じにとる場合をLittrow配置と呼びます。波長選択できるガスレーザーの内部でもこの配置が使われてます。この配置の場合、光ファイバーから広がる光のコリメートと回折した光の集光に同じ1つのレンズを使うことができるので、光学系が簡単になるという利点があり、自作には適当です。天文アマチュアの方が星の光の分光目的でこの方式で自作されているのをウェブで見ることがあります。今回作った光学系の概念図を下に示します。この場合、ビームスプリッターで回折格子から戻ってきた光をCCD検出器へ送ってます。この場合の短所は、ビームスプリッターで一部の光はそのまま透過するため、強度的にはロスがあることです(これは入射光も同じ)。透過50%反射50%のビームスプリッターを使うので、強度はビームスプリッターを使わない場合の約1/4くらいになります。これで強度が問題とならない場合には、Littrow型は有効と思います。普通の配置で分光器を構成したこともありますが、調整がより面倒でした。調整が簡単な点もLittrow配置の利点です。

CCD検出器

BandWTEK-inside.jpeg

 自作の場合、検出器をどうするかは大問題です。浜松フォトニクス等で検出器やCCDカメラだけを買って自分で全て作ることもできますが、そこまでの時間はありません。今回は既存の小型分光器の検出器部分を流用することにしました。使ったのはScience Surplusが売っていた数万円の小型の分光器で、これ自体はB&W TEKがOEMで作っていた分光器の中古品で、それをScience Surplusが新しい箱に入れて、ソフトをつけて売っているものです。以前はebayで見られましたが、現在はもう売ってないようです(たまに出品するようです)。ただ、B&W TEKのOEM製品自体はまだ中古で流通しているのでそれを使ってもいいかも。これ自体は小型分光器なので、中に反射鏡や回折格子も入っているのですが(これはCross Czerny-Turner型の配置)、それらを全て取り外して、検出器として使いました。そのため、測定用ソフトがそのまま使えるので、ソフト自体を作る必要がなくなりました。検出器はソニー製のリニアセンサー(ILX511A)を使ってました。これは2048 pixelで、1 pixelは縦長です(14x200ミクロン)。このセンサーはオーシャンオプティクスの分光器等広く使われているようです。下の写真は反射鏡や回折格子を取り外す前の状態です。みづらいですが、左側側面に窓があって、そこを外部から光を入れるために使ってます。

実際の光学系

Littrow-spectrometer-detail.jpeg

 焦点距離は200 mmにして、アクロマートレンズを使ってます。回折格子は2400 g/mmのものを使用(どちらもエドモンドオプティクスから購入)。これで今使っている顕微ラマン分光装置で普段使っている分解能とほぼ同じになります。700 nm付近だと、1 pixel当り約0.015 nmの分解能になります。光学系は普段よく使っているソーラボのパーツで組みました。ビームスプリッター(ハーフミラー)は薄い膜に金属蒸着した「ペルクル」を使ってます。最初バラックで作って、普通のUSB CCDカメラでスペクトルを試しに観察していた時に、厚いビームスプリッターを使ったら、ゴースト像がでました。ペルクルに変えるとこのゴーストが消えました。回折格子はキネマティックマウントに乗っているので、波長領域の変更はその微調整つまみの水平回転で出来ます。検出器自体は回転、傾き、前後のフォーカス微調整が必要で、それができるように下部部分を工夫してます。

ruby-at-2200psi.png

 最後、アルミ箱に光学系を固定して完成。光ファイバーを箱の外から繋げられるようになってます。今の所箱内部を黒く塗ることはやってません(最近は黒い布を被せてます)。現在、この分光器を使ってピストンシリンダー型高圧装置でルビー蛍光を測定に挑戦してます。この分光装置だと高圧装置のある部屋へ持っていくことが出来ます。この分光器を使ったピストンシリンダー高圧装置中でのルビー蛍光の測定例を示します。詳しくはピストンシリンダー装置のその場圧力測定をご覧ください。690 nm付近で約30 nm範囲が測定できます。
 仕様として書くなら、f/8, 200 mm。検出器Sony ILX511 1次元CCD 2048 pixels, 14x200 micron。0.015 nm分解能(2400 g/mm時)。反射型回折格子を回転させるとある程度は波長範囲を変えること可能。また回折格子の交換可能。(RS232Cをシリアル変換して)USBにてデータをPCに取り込むことができる。