CaSiO3 perovskiteはLiu and Ringwood (EPSL,28,209-211,1975)により初めて報告されたので、今年(2025)はCaSiO3 perovskite発見50周年にあたります(実はMgSiO3 perovskiteも最初の報告は1975年です)。そこで私が偶然?関わったCaSiO3 perovskite関連の話題を書いておきます(多少記憶が怪しい部分あり)。
CaSiO3 perovskiteについては最初Ringwood and Major(EPSL,12,411-418,1971)がCaSiO3組成で高温高圧実験を行って、15 GPa以上で合成すると回収された試料は非晶質になっていることを発見して、高圧下ではperovskiteだったのではないかと考えた。また、15 GPaより少し低い圧力では結晶性のよくない相が見られてそれをepsilon相と名付けた。
Liu and Ringwood(1975)はDACを使ってRingwood and Major(1971)の再現実験を行って、15 GPa以上の相が実際にperovskiteであることを高圧その場X線回折で示した。圧力を下げると非晶質化した。またepsilon相も観察した。Maoら(JGR,94,17889-17894,1989)も同様なDAC実験をもっと高圧まで行った(今書いていて以前こちらに居たAndy Jephcoatさんも共著者だと気づいた…)。1つ興味深いことは圧力を下げていくとかなり常圧近くまでperovskiteは見られて、完全に脱圧すると減少して最終的には全て非晶質になったと報告している。またepsilon相も同様に脱圧時に出来た相と考えられていたようである。
私は1990年頃、このepsilon相に興味を持った。その理由はこの相が”poorly crystallized”とRingwoodらの研究で報告されていたからである。当時ちょうど高圧合成試料のNMR測定で、Stanford大学のStebbinsやAlberta大学(その後Stanford)のXueと共同研究を始めたところで、NMRは結晶性がよくない試料においても局所構造情報を得ることができるので、epsilon相はよい練習になると考えた。早速12 GPaで実験して粉末X線回折パターンを測定してみると、確かにRingwoodの報告しているepsilon相が得られた。意外なことにパターンの一部はCa2SiO4 larniteでindexできた。ということはepsilon相は単相ではなくてCaSiO3が分解した可能性が高く、そのために粒径が小さくpoorly crystallizedとなっていたのだと想像された。NMR用に29Si濃縮CaSiO3組成で合成して、Stanfordに送った。29Si MAS NMRの結果は興味深く、12 GPaでは3つメインピークが見られ、4配位位置に2つ、6配位位置に1つ見られた(実はメインピーク以外に弱いピークがいくつも見られてそれらは興味深いのであるが、その話はまた別に…)。4配位の1つはlarniteで同定できた。なのでもう1つの未知相は4配位Siと6配位Siをそれぞれ1席(ほぼ同率)持つ構造となる。CaSi2O5組成ではないか予想された。このCaSi2O5相の構造についてはアナログ物質などNMRの結果も併せて考えてみると、CaTiSiO5 (sphene/titanite)の6配位のTiがSiで置き換わったものである可能性が高そうであった。CaTiSiO5の粉末パターンをベースにindexしてみると、粉末X線回折パターンを全て説明できたのでCaTiSiO5構造を持つことで確定した(なおCaSi2O5についてはもう1つの多形が存在するのだが、その話題もまた別の機会に)。
一方、15 GPaで合成した試料はNMRでは常圧ガラスと似た非晶質のブロードなピークを4配位Si位置に示した。Maoらの結果のことが頭にあったので、もしかしたらごく微量のperovskiteが残っている可能性があるのではないかと考えて、あまり期待はせずに、通常よりも非常にゆっくりと回折パターンを測定してみた。そうすると弱いがピークが出ていた。全てcubic perovskiteで説明できた(Pt容器からのPtのコンタミによるピークもあったが)。常圧のCaSiO3 perovskiteの格子定数は当然誰も測定したことがなかったので、重要だと思って格子定数を精密化した。NMRでも実はちょっとだけ6配位Si位置にピーク(肩)が見られていて、それがperovskiteかもしれない。
上記の結果はKanzaki et al.(1991)に報告した。
Kanzaki, M., Stebbins, J.F. and Xue, X.(1991) "Characterization of quenched high pressure phases in CaSiO3 system by XRD and 29Si NMR", Geophys. Res. Lett., 18, 464-466.