ラマンイメージング顕微鏡の試作 の履歴(No.2)


ダイレクト・ラマン・イメージング顕微鏡の試作(2017/01/29)

前書き

 非走査式で、直接ラマンイメージが取得できる顕微鏡を開発中です。装置の基本部分はチューナブルバンドパスフィルターで、これについてはチューナブルバンドパスフィルターの自作に紹介してます。これを思いついたところから実現へと動いてます。別項で紹介している顕微ラマン分光装置で2次元走査によるイメージングは既に可能となってますが、この方式では広い面積を測定するには長時間かかります。そのためにより短い時間で測定できる、こちらの装置の開発も行ってます。前者には空間分解能とスペクトル分解能が高い利点がありますので、一長一短というところです。装置の模式図を下に示してます。図に書いてないですが、最近レーザー側にビームエキスパンダー(4倍)を追加しました。

2DRaman-schematic.png

装置の概要

 この装置では回折格子を使った分光器による分光ではなく、試料の顕微イメージをラマンピークに相当する周波数に設定したバンドパスフィルターを通すことで「分光」し、ラマンイメージを直接2次元CCDで検出します。顕微鏡にデジカメをつけて撮影しているようなもので、特殊なフィルターが入っていることと、光源がレーザーであるところが異なってます。もしバンドパスフィルターで波長を走査することを行うと、回折格子を使った分光器ほど正確ではありませんが、スペクトルを得ることもできます(ハイパースペクトル)。今回試作している装置では、チューナブルバンドパスフィルター以外に、488 nm固体レーザー(max 100 mW)を励起光用に、QHYCCD社の冷却CCD(正確にはCMOS)を検出器として使ってます。さらに、レーザーラインフィルター、ラマン用のエッジフィルター、ダイクロイックフィルターを使ってますが、一部は顕微ラマン分光器のいらなくなった古いパーツ(エドモンドなど)、いくつかはオプトライン社から購入したものです。顕微鏡部分は無限光学系で、マイクロネットのx20の対物レンズとミツトヨの結像レンズ(f=200 mm)を使っています。それらをソーラボのケージ等を使って、ブレッドボード上に組み上げてます。最近(2017年10月)、水平置き試料の測定が可能なように上下方向に組み直しました。その写真を下に示しています。

2DRaman-2.png

QHYCCD社の冷却CCD

 QHYCCD社は最近知ったのですが、天文用の安価な冷却CCD (CMOS)カメラを作っているメーカーです。その中でも多分最も安いminiCAM5Sを手に入れました(~US$500)。モノクロ/カラー両方ありますが、使っているのはモノクロです。センサーはCMOS MT9M034, 1280*960, 1pixelが3.75x3.75ミクロン、QEがこの値段で74%!AD変換は8/12bit、冷却は今の時期(冬)だと-25 Cくらいまで下がります(-40 C below ambientとある)。USB2.0。ドライバーとソフトはWindows, Mac用が用意されてます。現在のところ、それほど問題ありませんが、たまに制御不能になることがあります。カメラ全面にはCマウントのメスネジが切ってあるので、ソーラボのCマウントオスネジーSM1メスネジアダプターを使って、ソーラボのレンズ筒(SM1)に接続してます。

装置の初期テスト

 とりあえずレーザービームを試料にフォーカスした状態で、ラマン散乱が検出できているかどうかのチェックを行ってます。この装置は現状イメージ取得だけで、分光測定はできないので、テスト測定していると、訳が分からなくなりました。蛍光が出ている場合や、透明な試料の場合は透過したレーザービームが様々なところに当たってそこからも散乱が来ることなどが原因のようでした。そこで、シリコン単結晶板を測定しました。左側のイメージがシリコンのラマンピーク位置あたりにバンドパスフィルターを調整した時、右側のイメージがピーク位置からずらせた場合です。左側にはレーザースポットが見えるので、確かにシリコンのラマン散乱が観察されていることが分かります。周りの模様はノイズです。この例は露光時間4秒ですが、もちろんもっと短い時間(63 ms)でも検出可能でした。合成coesiteや天然オリビンでも強いラマンバンドの波長領域で同様な観察ができました。

Si-Raman-image.png

装置のテスト

 続いてビームをdefocusして(正確にはビームエキスパンダーの逆のことをしている)、ラマンイメージが撮れるか試してみます。最初色々とうまくいきませんでした。2つ理由があって、1つはレーザーのビーム径が思ったより小さかったことで、defocusレンズの焦点距離(と対物レンズの焦点距離)で調整しようとしましたが、ちょっと無理がありました。最後はビームエキスパンダーをレーザーの後に入れて、ビーム径を4倍に広げました。2つ目は適切な試料を使うのが重要だということで、最初はシリコンを使ってましたが、スポットの時は問題なかったのですが、ビームを広げるとあまりよく分からなくなりました。手元にあったMg2GeO4オリビンの焼結体表面を測定したところ、こちらはよく見えました。2つのモーターの回転を駆動するポテンショメーター2つを両手を使って、手動で波長を走査していると、ある波長で像がはっきり見えてきました。その波長をMg2GeO4オリビンのラマンスペクトルと比べると、ちょうど最も強いピークあたり(760 cm-1)に対応してました。最初に取れた像を下に示してます。レーザー出力30 mW、2秒の露光時間。露光時間をうまく調整しないと像がうまく撮れません。光学像と比べると、暗い部分のいくつかは必ずしも穴と対応してないので、オリビンではない相も含まれているようです。横幅が約250ミクロンです。レーザービーム強度は均一ではなく周辺で弱くなってますので、イメージも周辺が暗くなってます。レンズの周辺減光の効果も。
 結局、スポットを見るような目的にはフラットなSiウェハーがよかったが、広がったビームは焼結体の方が見やすかった。

Mg2GeO4-760cm-.png

 ごく最近CMOS検出器をカラーのものと交換したので、全ラマン散乱のカラー画像が取れるようになりました。全ラマン散乱というのは要はバンドパスフィルターを使ってない状態で全てのラマン散乱を使って画像を撮っていることになります。下の図は全ラマン散乱で見たMg2GeO4オリビンの焼結体表面です。ほぼオリビン相なので、この場合あまり意味がありませんが、1つ色味の違う部分があり、これは別の相だと思われます。全ラマン散乱をカラー撮影することで、(うまい条件によっては)相の区別ができるのではないかと考えて、それを使った実験を考案中です。バンドパスフィルターを使った方が相の区別についてよりよいのですが、別の相はその時には見えません。他の相も同時に観察したい様な状況では、全ラマン散乱画像が有効な場合があるように思います。また、より明るいのでリアルタイム観測が実現できるかもしれません。

Mg2GeO4-allRaman.jpg

最新の状況

 現在の問題点の1つは、検出器のダイナミックレンジが広くないので、露光時間を毎回調整しないとうまく像が見えないことです。光学像とラマン像の切り替え時に調整するのが面倒です。これは慣れればそんなに苦労なくなりました。