チューナブルバンドパスフィルター の履歴(No.2)


チューナブルバンドパスフィルターの自作(2016/12/15)

前書き

(以下ではサーボモーターを使ってましたが、現在ではステッピングモーターに変えて、より高精度に制御できるようになってます)
 ラマンイメージング顕微鏡の試作の方に書いているように、ラマンイメージング顕微鏡を自作しようと考えているのですが、その重要な要素として透過波長領域が狭いバンドパスフィルターで、その波長が自由に変えられるものを探していました。しかし適当な価格(数十万以内)で必要な性能のものが見つかりません。色々探している時にSemrock社のVersa_Chromeチューナブルバンドパスフィルターに目が止まりました。これはフィルターの光軸からの傾きを変えることでバンドパス中心波長が変化するものですが、残念ながらバンド幅が数十nmあって、ラマンイメージング用途には広すぎます。しかし立ち上がりの部分は他社のフィルターよりもシャープです。そこで閃きました。このフィルターを2つシリアルに使って、わずかに角度をずらせると、このフィルターのバンド幅よりもさらに狭いバンド幅のフィルターとして使えるのではないか?検索すると既に全く同じアイデアが公表されてました。残念ですが、このアイデアが実用的であることが分かりました。
 最近、これと同じアイデアを使った、波長可変光源がデルタ光器から発売されてます。
 2017年12月1日に岡山大学が開催する知恵の見本市で実物を展示しました。ポスターpdf

フィルターの入手

 Versa_Chromeフィルターには同様な立ち上がり性能のチューナブルエッジフィルターもあって、バンドパスフィルターを2個使うよりは、ショートパスとロングパスフィルターのペアを使った方が話が単純で、より汎用性がありそうです。残念ながら1つのフィルターで可変できる波長は60 nmくらいで、普通のラマン測定領域から考えると少し狭く感じます。今回はまず試しとして、500-560 nmのショートパスとロングパスフィルターのペアをオプトラインから購入しました。励起レーザーには488 nmを予定しているので、これだと550 ~ 2600 cm-1くらいのラマンでの振動数をカバーします。含水相などのOH伸縮振動(3500 cm-1前後)も見たい私にはちょっと微妙です。OH伸縮振動や低周波数が必要な場合は別の周波数領域のフィルターペアを用意する必要があります。または、レーザー波長を変える。

フィルターの回転方法

 さて、バンド幅および波長を自由に変えるためには2つのフィルターを独立に回転させる必要があります(バンド幅固定なら、1つのモーターでも可と思いましたが、どうもそう簡単ではないようです)。そのためにサーボモーターを使うことにしました。サーボモーターを使った理由は以前に顕微ラマン装置の回転式NDフィルターの制御で使った経験があったからです。また、その時は秋月電子通商のコントローラーキットを使いましたが、秋月電子通商よりデジタルサーボモーター3個を制御できるコントローラーキットが新たに販売されていたので、コントローラー1つで制御できるため好都合だったこともあります。そこで秋月でコントローラーキットとデジタルサーボモーター(Savox SG-0351)2個を購入しました。モーター自体の仕様にもよりますが、私が買ったモーターはコントローラーの仕様とも考えると、回転角を約0.2~0.3度で制御できるはずです。またモーターをソーラボのケージに接続できるようなアダプタ板を自作しました。出来上がったものが下の写真。コントローラー、アダプター板等についてはちょっとした自作にもう少し詳しく書いてます。

homemade_BPF.png

性能チェック

 さて分光器を使って、作成したチューナブルバンドパスフィルターの簡単な性能チェックを行いました。入射光には緑のLED光源を使ってます。これは540 nm付近を中心に100 nmくらいのブロードなスペクトルを持ってます(下図の緑カーブ)。これに作成したフィルターを適用してみました。青色で示したカーブは2つのフィルターの回転角度をまだ調整中の状態で、透過する部分(バンドパス)の幅が広いのですが、2つのフィルターにより元のブロードな分布を左右で切っていることが分かります。右側はショートパスフィルターにより、左側はロングパスフィルターに切られています。これをさらに追い込んで、なるべく細いバンド幅になるように調整したものが、赤色のカーブです。これで1.5 nmくらいの半値幅となります。当然多少透過率が落ちます。追い込むのは1 nmくらいが限度で、それ以下の半値幅は透過強度が低くなるだけなので実用的ではありません。これはSemrock社提供のデータから予想される性能と一致してます。とりあえずこの程度(半値幅1.0~1.5 nm)の性能がでることが分かりました。これはラマンにすると、30~45 cm-1程度の半値幅になります。区別したいラマンピークが他のピークからそれ以上離れている場合には十分使えることになります。これを使った装置についてはラマンイメージング顕微鏡の試作に書いてます。

tbpf-spectrum.png

 ラマンで使うためには、測定した波長または振動数に対して、フィルターを適切に回転する必要があります。そのために校正(エッジ波長とサーボモーターの回転角度の関係)しました。その結果を見ると、角度に対してエッジ波長は中央部では比較的リニアですが、両端でかなりずれてきます。少しfitが悪いのですが、とりあえず波長(と半値幅)を指定すれば、2つのフィルターをどう回転させればいいかが分かるようになりました。これを使って設定をして、実際ピーク幅が1.0~1.5 nmになっていることをいくつかの波長で確認しました。fitが悪いので、波長が特に両端でずれてくるのが現在の問題です。今後、より丁寧に校正を行う予定です。

その後の改造

 キット付属の可変抵抗では微妙な調整が難しいので、より精密なポテンショメーターに交換して、この点は改善されました。また、可変抵抗/ポテンショメーターの回転に対して反時計方向側はスムーズに追従するが、逆側はそうではない(コントローラーのせい)。精密な調整は片側からする必要がある。これはPCからDA変換器を使った時にも生じた。どうも微小な変化の場合にその変化が片側からは検出できてないようだ。PCからの場合、片側の方向については一度大きめにずらせてから戻すとうまくいく。反対側はその必要はない。
 最初、上記の写真のように2つのフィルターを逆方向に回して、光軸のずれを補正する配置を取っていましたが、これだとバンドパスの半値幅を絞った時に透過光が均一の強度で透過していないことに気づきました(つまり片側が暗くなる)。これはイメージング用途ではあまりよくありません。そのため、現在は同じ方向に回すように変えました。これだと問題はないのですが、やはり光軸のずれが気になります。イメージング用途だと問題はあまりないと思いますが。
 配線を変えて、両方共ポテンショメーターの回転と同じ方向にフィルターが回転するようにしました。また、フィルター取り付け位置を変えて、フィルターが光軸と平行になれるようにもしました。これはフィルター外したのと同じ状況にするために必要となります(フィルター断面が視野にかぶるが)。ラマンで使う場合は、全ラマン散乱イメージを観察する場合にこの配置にします。またはフィルターなしの普通の光学像を取るときにも。
 これまではポテンショメーターのつまみを手で回して回転角を変えてますが、現在はDA変換を使ってPCから制御できるようにしました。下の図がそのプログラムのフォームで、Visual Studio 2013で、DA変換器について来たサンプルプログラムをベースに作りました。基本の機能は相対周波数を指定すると、その位置にフィルターを移動させることです。それ以外にも光軸に平行になるボタンも作ってます。波長のスキャン機能も付けてます。検出器とは連動してませんが、大体どこの周波数で光っているかをチェックするには使えます。また、鉱物の代表的なピーク位置へフィルターを回転させる機能も付けました。下の図は石英のメインピークを選んで、その相対周波数位置へ回転させた状態。しかし、このプログラムのソースが入っていたPCが使えなくなったので、改良のためにまたゼロから作り直しているところ。

servo-DA-control.png

まとめ・課題など