SolExProメモ の履歴(No.17)


SolEx Proメモ(作成2024/11/07)(改訂2024/11/18)

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(今日(2024/11/15)検索していたら Sunscan という新しい装置が発表されていることに気づきました。こちらは望遠鏡に取り付けるのではなくて、D25 mmの対物レンズを含んだシステムでそれだけで太陽面の観察ができ、制御や太陽像の観察はwifiを使ってスマホやタブレットで出来るようです。太陽面のスキャンは自転を利用しますので4分近くかかります。内部的にはRaspberry Pi 4Bとそれ用のHQカラーカメラユニット(Sony IMX477使用)を使っています。SolEx同様に光学パーツセットと本体3Dプリントパーツを購入することが可能です。下のSolExのパーツと同じメーカーで、既に販売してました。もちろん3Dプリンタで自分で作ることも可能。SolExでもカメラ部分をRaspberry Pi 4BとHQカメラを使うように改造すればスマホで操作できるようになりそうです。Raspberry Pi 4Bは持っているので試してみるかな…)


SolEx Pro(右の写真はAzur3dprintの3Dプリント済み部品)

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 最近の天文ガイドに太陽用分光器SolExの記事が掲載されていました。SolExはフランスのChristian Builさんが開発された太陽用の分光器で、それを超狭帯域フィルターとして使って、さらに太陽面をスキャンすることで特定波長での太陽面画像を得ることができます。特徴としては3Dプリンターで本体を作成できるようにしていることで、比較的安価に製作できることです。また星用のStarExもあります。さらにウェブで詳しく調べてみると汎用の分光装置としても使えそうな感じがあったので購入してみました。なのでこのページは太陽面観察というよりはSolExを実験室の分光器として使うことを目的としてます。
 なお正確にはSolとExの間にアポストロフィが入るのですが、このwikiではアポストロフィがあるとエラーになるのでSolExと記載しています。私が購入したのはSolEx Proの方です。私も3Dプリンターを持っているのでSolExのオリジナルバージョンを印刷することは多分可能なのですが、色々と難しいことがあるようなので完成品をAzur3dprintから購入しました。230ユーロだったと思います。なお、初回購入は割引があり、またDarkSkyGeekのStarEx Proのyoutube動画の最後に割引のお知らせがあって、そちらも合わせて利用可能だそうです。ただこれはStarEx ProだけなのかSolEx Proにも適用可能なのかちょっと分かりませんでした。私は注文後にその動画を見たのでこの割引は試していません。
 SolEx ProはProでないものに比べてネジ部分にアルミ製パーツを使うことにして丈夫になっていて、スリット側のフォーカス調整機構が付き、材質もPETGよりも熱に強いフィラメントを使っているなどの各種改良がなされています。この辺りが自作することを躊躇する理由です。また、内側で使っているネジが黒い艶消しになってました(DarkSkyGeekの動画では黒くなってないので、これはごく最近の改良のようです)。到着時に関税5200円取られました(これにはSolEx Pro以外のものも含まれています)。届いたパーツを右側に示してます。紙の組み立て説明書は付属してませんでしたが、Azur3dprintのSolEx Proのページから組み立てと調整のpdfがダウンロードできます。Pro用ではないのですが、特に問題はありません。なお自作する場合、PLAフィラメントは赤外光を透過するため使わない方がいいそうです。PETGの使用が推奨されています。

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 光学パーツについてはShelyak InstrumentsでSolExに必要な光学パーツセットを販売してます(405ユーロ)。こちらも購入しました。関税は8000円でした。スリット以外はエドモンド、ソーラボなどでも入手可能ですが、ShelyakのレンズはSolExに最適化されているようです。右に届いたパーツの写真を示してます。アクロマートレンズ2種、10ミクロンスリットと2400 g/mmの回折格子。
 SolExを完成させるためには以上以外にCMOSカメラ、ZWOのヘリコイド、減光フィルター(望遠鏡に取り付ける)が必要です。カメラによってはさらにヘリコイドとカメラを接続するアダプタが必要になります。
 使うCMOSカメラとしてはSonyのIMX178センサーを使ったものが推奨されています。AWOのASI178MMやPlayer OneのSedna-MやNeptune-Mが相当します。私はどれも持ってないので、とりあえず持っているPlayer OneのCeres-MかNeptune-CIIを使ってます。Sedna-MとCeres-Mはガイドスコープ用で、先端が1.25インチ径のスリーブ状になってます。これらはZWOのヘリコイドだけでは焦点が合わないので、右の写真のように手元にあったNorthern Cross社のM42/31.7 mmの変換アダプタを追加して接続しています(これはシュミットで購入)。なるべくカメラ先端を奥で保持するためにヘリコイドの目盛5程度にしておきます。

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 また右の写真には取り付けてないのですが、上の届いたパーツの写真の右下にある赤いリングをCeres-Mに取り付けています。これを使うと焦点は変えずにカメラを回転させることができるので調整に便利です(説明がないのでこのパーツの本来の目的はよく分からないのですが)。Player OneのNeptune-M等の六角形カメラの場合はノーズピースが付属しているので、それを使えばZWOのヘリコイドに固定して焦点も合わせられます。太陽観察目的だとグローバルシャッターの機種が今後使われるようになると思われますが、Player OneだとXena-MがグローバルシャッターのCMOSを採用しています。なお私はTeledyneのBlackflyカメラ(BFLY-U3-23S6M-C)を持っているのですが、それはXena-Mと同じCMOSセンサーを使っているので、時間があればそれでも撮影してみます。
 光学パーツの本体への組み込みと調整はそれほど難しくはなく、説明書や youtube動画 通りにやれば問題ありません。動画はProではないのですが、大きな違いはないと思います。Builさんの動画では回折格子の側面を手で触れてますが、側面であっても手で触れない方がいいと思います(側面についた手の油脂が拡がっていくため)。手袋して扱った方がいいでしょう。SolEx ProをMILTOL望遠鏡(f =200)に取り付けた状態を一番上の写真に示しています。

テスト

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 入手してから曇り続きで太陽の観測はできてませんが、曇り空でもスリット側を空に向けるとフラウンホーファー線がちゃんと見えました。この写真をよく見ると埃がいくつも見えるので原因を調べたらCMOSセンサーについてました。掃除したので今はなくなってます。曇り空でもスリット部のフォーカス調整などには十分です。蛍光灯に向けると水銀のスペクトルが、ネオンランプをスリット前におくとネオンランプのスペクトルが得られました。

汎用分光器として使ってみる

 分光器としては入射側コリメートレンズf=80 mm、2400 g/mmの回折格子、検出側レンズf=125 mmの仕様になりますが、回折格子やレンズ等は交換可能です。ただレンズの焦点距離を変えるためには保持リングを3Dプリンタで作り直す必要がありそうです。

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 スリット部の端(四角い部分)はM42メスネジとなっているので、ソーラボのM42オスネジ–SM1メスネジのアダプタ(SM1A49)を使うと、ソーラボ標準のSM1の光学系に組み込むことができます。光ファイバーのコネクタをSM1のパーツを使って接続すれば光ファイバー入力の分光器としてすぐ使えます(スリットは外しておく)。右の写真はそうやって光ファイバーを接続した状態です。これで光ファイバーから導入した光を分光して画像として測定できるようになりました。
 ただよくあるNA0.22の光ファイバーを使うとして、コリメートレンズ80 mm焦点距離だとファイバーからの光はレンズ位置で35.2 mmまで広がるので、半分くらいの光しかレンズを通らないことになります。50 mmくらいの焦点距離レンズを使えばいいのですが、そうすると拡大倍率が2.5倍になるので、それもちょっと困る気がします。まあそちら側のレンズの焦点距離も変えればいいのですが。太陽用には分散方向を縦(CMOSセンサーの短い方向)にしますが、分光器目的では分散方向は横にして横長なセンサーを有効利用した方がいいでしょう。

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 SolEx Proは望遠鏡に取り付けて使うことを想定しているため、平らな机の上では安定しません。固定ネジ(赤いやつ)が突き出ていたり、取り付けるカメラが大きいと机に当たって邪魔なためです。私はAzur3dprintでKodak Turntableも購入しました。これはSolEx Proの下部に取り付けて、雲台に載せるためのアダプタです(これだけなら3Dプリンターで自分で作れそうですが)。その下にさらに自作プレート1枚を置いて雲台用ネジを使って固定しました。これで机の上でも安定するようになりました。Kodak Turntableを付けて、スリット前にD25 mm対物レンズを置くと光学的にはSunscanとほぼ同じです。

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 右の図は光ファイバー(50ミクロン)で取り込んだネオンランプのイメージです。これはPlayer OneのNeptune-CIIで撮ってます。SharpCapという天体撮影用のプログラムを使って撮影しました。範囲的には590 nm付近です。保存ファイル形式はpngなどだと強度が8 bitに落とされてしまったので、天文分野でよく使うfitsを使いました。この画像を1次元スペクトルに変換するためにpythonでちょっとコードを作りました。fitsファイルを処理する場合にはastropyライブラリーがよく使われるので、astropyを使ってfitsファイルを読み込んで、縦方向にスポットがある辺りを縦に積算して1次元スペクトルに変換してみました。積算にはNumpyを使ってます。1行で(範囲を指定した)積算が書けるので便利です。得られたスペクトルを下に示してます。左側が長波長側になります。そのままだとギザギザするので少し平滑化してます。これもNumpyの関数を使ってます。そのまま積算しているのでバックグラウンドが非常に大きな値になってます。

neon-SolExPro-590nm.png

 532 nmレーザーをルビーに照射して生じた蛍光を見てみました。ルビー蛍光の2つのピークが690 nm付近に出ます。100ミクロン径光ファイバーを使ってます。ルビー蛍光法による圧力測定用途にも十分使えそうです。別ページで自作のLittrow型分光器について書いてますが、分解能はそれと同じかもっといいかもしれません。焦点距離が短い割に分解能がよくなっている理由は検出器のピクセルの大きさがSolExの方がかなり小さいからです(約1/5)。

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ラマンスペクトルを撮ってみる

 ここまで来ると私的にはSolEx Proでラマンスペクトルが測定できるのかどうかが気になります。簡単な顕微測定光学系を組んでみました(上のルビー蛍光もこれで測定)。