(20241014)最後に『「普通」の偏光測定』を追加
(20250619)『自動測定』を追加
(20250817)『強度の計算方法』を追加
試料に入射するレーザーの偏光角度を任意に変えて測定できるように顕微ラマン分光装置を改造しました(元にも戻せます)。その方法をメモしておきます。かなり以前からレーザー装置から光が出た後に手動回転マウントを置いて、そこに1/2波長板を入れて偏光方向を変えることはできていました。ただこれは偏光方向をレーザーから出てきたままか、それを90度回転させるかの2つのパターンで測定することを想定してました。当時はCCl4を測定して確かに教科書通りの偏光解消度になることやガラスのHH, HV測定をしてみましたが、それ以上の測定は行いませんでした。アナライザーにはグランートンプソン偏光子を使ってました。今回は偏光面角度を任意角度に変えて(角度分解)測定できるようにしようと考えています。なお普段は非偏光測定を行なっています。
結晶学会誌の解説記事を挙げておきます。
偏光角度の制御にはELL14をpythonで制御するで紹介しているソーラボのELL14回転マウントを導入しました。ここに1/2波長板を入れます(右の写真)。1/2波長板は直線偏光が光軸と一致して入射すると偏光方向はそのままで、1/2波長板を回転して光軸から回転した場合は、その回転角度の2倍分偏光面が回転します。なので1/2波長板を回転制御することで偏光角度を制御できます。そしてそれを対物レンズの上に設置しました(一番上の写真がその状況です)。ここに設置する利点は光が入射時と散乱時で2度この同じ1/2波長板を通過することで、分光器側には常に同じ方向の偏光がいくことになります。また偏光面をこちら側で制御することで試料自体を回転させる必要はありません。なお、対物レンズはELL14回転マウントとは直接つながってません(対物レンズは回転しない)。
アナライザー(後方の偏光子)にはやはりグランートンプソン偏光子を使います。このグランートンプソン偏光子はかなり前に買ったものですが、問題ないようでした。グランートンプソン偏光子は長くて場所を取るのですが、偏光度が高いところと、透過率がよいことが利点です。グランートンプソン偏光子は手動の回転マウントに取り付けて、コリメートしている部分に入れてます(右の写真)。またその後方にはdepolarizerが置かれています。グランートンプソン偏光子で不安なところは90度回転した時に光軸がずれるかもしれないことですが、使い方としてはグランートンプソン偏光子は0か90度に固定しておいて、ELL14回転マウント側で角度を少しづつ回転させて測定するために相対強度で比較する限りは問題ないはずです。
ELL14回転マウントはPCからUSBを使ってシリアル制御できるので、pythonにシリアル制御モジュールのpyserialを導入してプログラムを書くと簡単に制御できました。これもELL14をpythonで制御するで紹介しています。さらにtkinterを使ってGUIインターフェースのpythonプログラムを作って回転できるようにしました。1/2波長板はELL14回転マウントに取り付けてますが、あまりきちんと角度を決めての取り付けができません。角度のoffsetは測定で決めて、offset分を補正して回転するようにプログラムを作りました。現在はこのプログラムで偏光面を回転させて、ラマンスペクトルを測定しています。角度を変えながら自動的にラマン測定できればいいのですが、そこまではまだ出来てません。ただラマン制御ソフトはpythonから制御できるのでそれも可能なのですが、あまりプログラム作成に割く時間がありません。
(2025/06/19) その後、プログラムはまだプリミティブですが、自動で測定できるようになりました。
水晶単結晶でテスト測定してみました。天然水晶のm面を上にして、c軸方向を入射レーザーの偏光方向にしてます。グランートンプソン偏光子を入射レーザーの偏光方向と同じにします。この状態で1/2波長板を0から45度まで、5度刻みで変えてラマン測定しました。これは偏光面方向を0から90度まで10度刻みで変えていることになります。テストなので角度はまだ荒く変えてます。x20対物レンズ、80 mWで30秒か60秒の積算(ただ角度によっては最強線が飽和するのでもっと短くすべきでした)。
いくつかのラマンピーク強度(実際には高さ)を角度に対してプロットしたものを上に示してます。最も強いもの(四角)は464 cm-1のピークです。ダイヤは210 cm-1のブロードなピーク。まだ1/2波長板のoffset角を補正していないので、10度ほどずれてるのが見て取れます。それを頭の中で横に移動させると、強度がcos(2*angle)の二乗の依存性を示しているように見えます。本当は積分強度を求めないといけないのですが、まだテスト中なのでピーク高さを使ってます。ベースラインも引いてません。この依存性はラマンテンソルから得られる結果と一致しているようです。グランートンプソン偏光子を90度回転して同様の測定を行いました。モードによってはcos(2*angle)の二乗のもの、sin(2*angle)の二乗になるもの、さらにもう少し複雑な角度依存性が見られました。これも予想通りです。
まだ結果が完全に理解できていないところがありますが、角度分解偏光ラマン測定自体の方は問題なくできているようです。また角度依存性をちゃんと見るには180度まで測定した方がいいようです。
装置は共同利用で使うことができます。また見学も可能です。
pythonでELL14の回転とラマン測定で使っているプリンストンインスツルメンツ社のLightFieldソフトを制御して、自動で偏光角度を変えてラマン測定ができるようにしました。
それを使って天然diaspore (AlOOH)試料を測定してみました。自動で偏光角度を0~180度範囲で5度毎回転させて30秒露光測定。アナライザーにはグラン・トンプソン偏光子を使ってます。diasporeは010の劈開が明瞭なので、劈開面に垂直にレーザーを入射して測定しました。なのでPbnm設定だとac面を測定していることになります。上に示しているのは最も強い445 cm-1付近のピークの偏光角度依存性で、cos(2*angle)^2の角度依存性を示しました。これはアナライザーがクロス位置の場合です。他のピークではsin(2*angle)^2のものや強度が最小点でゼロにならないものなどがありました。パラレル偏光だとさらにsin(angle)^4?依存性のものも出てきます(下の図)。角度依存性は振動の規約表現によって異なるので、角度依存性からどの規約表現かを判定することができそうです。
試料の方位は偏光顕微鏡で直消光位置から大体決めておいたのですが、上の図を見ると10度ほどずれています…OH伸縮振動も測定したのですが、ブロードでピークが4つくらい重なってそうなので、それらをどう処理するか考えているところです。なお上記のプロットはmatplotlibのpolar plotで作ってます。0~180度までしか測定してないので、180~360度は0~180のコピーです(原理的に同じになるはず)。
今回の反省点としては平行ニコルで最強ピークが一部飽和していたことで、事前に0と45度で測定して飽和しない露光時間を予め求めておいて、測定ではそれを使わないといけない。
得られた結果を解釈するには理論的な強度を計算して実験と対応させる必要があります。計算方法は先の解説にも大体は書いてありますし、引用している論文も参考になります。簡単に言うと、ラマンテンソルの後に回転行列、その前に転置した回転行列を置いて、それを計算するとラマンテンソルの角度依存性が計算できます。強度はその二乗に比例しているのでそれを計算します。そのYY成分がパラレルで、YZ成分がクロスに対応してます(結晶方位と光学系の取り方によってはZZやZYになるかも)。1つ注意が必要なのはラマンテンソルの例えばaとbの交差項が出てきた場合は、この2つで一般には位相が異なるので、aとbの位相差を考慮したcos項が必要になります(cos(wab))。これも実験結果のfitからrefineすべきパラメータの1つになります。手書きですが、前出の解説に出てくる点群での計算練習例を下に示しておきます。
上記の配置は角度分解測定にはいいのですが、単結晶でラマンテンソルに対応したxx,yy,zz,xy,xz,yzなど測定したい場合には対応が分かりづらくなります。そのような場合は対物レンズ前ではなくて、もっと手前のレーザー入射側へ回転マウントを設置するようにしました。下の写真はビームエキスパンダ前にELL14回転マウントを取り付けた状態です。片側の30/60変換プレートは外してます(左のミラーと干渉するため)。
この状態でHVとVH測定での強度を比べたところ、VHの方の強度が低くなることが分かりました。本来同じはずです。実際モニターのレーザースポット像が入射がHとVで大きく変わります。しかし試料位置でのレーザー強度に変化はありません。ビームスプリッター等に偏光依存性があって、それでVHの強度が散乱側で落ちるようです。強度を正しく比較したい場合にはやはり上記のように対物レンズ前に取り付けるのがいいようです。