QualX2 の履歴(No.1)


QualX2(粉末X線回折パターンの定性分析用ソフト) (2015/06/22作成)(2019/05/18更新)

最新情報

前書き

 QualX2は粉末X線回折パターンの定性分析(相同定)用ソフトである。EXPO2014やSIR2019と同じくイタリアの結晶学研究所が開発しており、アカデミックユーザーの場合は無料で入手できる。QualXでは使えるデータベースがPDF2だけであったが、QualX2では、粉末回折データベース(POW_COD)が使えるようになった。CODは結晶構造のオープンデータベースであるが、そこからEXPOを使って、粉末回折パターンを計算してデータベース化したものがPOW_CODとなる。つまり、アカデミックユーザーの場合で、POW_CODをデータベースに使う場合は、完全に無料で粉末回折データの定性分析ができるということになる。某有料データベースには極めて失望している現状、このソフトとデータベースの存在意義は大きい。また、メーカー製ソフトおよびデータベースの場合は、ライセンス数の関係で、個人のPCにインストールすることは出来ない場合が多いが、このソフトとデータベースなら自分のPCにインストールして、どこでも使える。QualX2はWindows版しか提供されていない。

入手方法

 こちらにQualX2のダウンロードページがあり、レジストレーションするとメールが届いて、ダウンロードできるようになる。マニュアルはレジストレーションしなくても読める。対応するWindowsバージョン(XP or later) (32 or 64bit)をダウンロードする。また、POW_CODを使う場合は、そちらもダウンロードするが、現在fullとinorganicの2つが用意されている。無機物しか扱わない方は、容量が少ないinorganicを選ぶとよい。fullは圧縮されていても1 GB以上ある。

使用方法など

 マニュアル通りで、特に問題なく使えた。最初にPOW_CODを利用するデータベースとして登録する必要がある。4つテスト用の回折データファイルがついてくるので、最初はそれで遊んでみる。データファイルを開くと、波長を尋ねてくるのでCuなどと答える。任意の波長が入力できるので、角度分散でとった放射光データの定性定量分析もできる。特にノイズの大きいデータでなければ、データ読み込んだら、いきなりSearchメニューからSearch-Match法を実行するだけでよい。バックグラウンド、ピークサーチ等は自動で行ってくれるが、自分でチューニングもできる。ノイズが大きくて、ノイズをピークと拾っている場合は、peak searchをオプションでピーク検出閾値を下げてやる。
 Search-Matchで、POW_CODデータベースを使って可能性が高い相がリストアップされる。実測とパターンを見ながら、同定していけばよい。元素で検索する相を制約することもできる(Restrain)。複数相を含む場合は各相の割合も計算してくれる(確定した相について)。装置メーカーのソフトと比べてもそれほど見劣りはしない。
 測定データファイルの読み込みでは、回折計メーカーのデータフォーマットに対応してないので、ちょっとした加工が必要である。単純に各行に角度と強度ペアを記述したものか、1行目にスタート角度、ステップ角、ストップ角、2行目から強度データだけを書いたものが使えるので、回折装置の作るデータファイルを少しテキストエディターで加工すれば問題なく読み込める。本研究所のX線回折装置ユーザーのことを考えて、Xojoでリガクの.ascファイルを変換するプログラムを作った。.ascファイルをプログラムアイコンにドロップすると、変換して.datファイルを作成する。単純なプログラムですが、使ってみたい方はダウンロードして下さい。なおリガクの.ascファイルは測定によっては複数の回折データを含んでいることがあるが、本プログラムは複数データセットには対応してないので、表示等がおかしくなる。一度、.ascファイルをeditorで見てください。
 手持ち回折データを10個ほど試したところ、全て正しく相が同定された。我々の場合、ケイ酸塩類が多いが、American Mineralogical Societyの結晶構造データベース(AMCSD)がCODに提供されているため、鉱物関係は特にデータが充実していると思われる。1つ自動でうまくいかないのがあったが、これは角度ゼロ点が大きくずれていたためであった。ゼロ点補正をしたら、うまく同定された。
 私の手持ちのデータの場合、自動ではピークとして低角領域のノイズが沢山ピックアップされることが多い。そこで同定の前にピークサーチのオプションで、ピークのない低角度域を除外し、またピーク検知の閾値をいじれば改善される。Smoothingも有効である。その後、Search-Matchを行う。その後、たまに実際の測定時に使っているが、major phaseで検索が失敗したケースは今の所ない。
 デフォルトのピークサーチを行った後はピークリスト(角度、強度)を出力できるが、オプションを使うと出力できなくなる。せっかく低角度ノイズ由来ピークをオプションで削除しても出力はできない。後でエディターで処理する必要があり、ちょっと不便。指数付け用ソフトの入力データとして使える。
 検索された相のcard numberはCODデータベースでのID番号そのままなので、結晶構造を見たい場合は、こちらでその番号で検索すればすぐ出てくる。実際的には検索しなくても、直接www.crystallography.net/cod/xxxxxxx.cifとxxxxxxxをその番号で指定すればよい。CIFファイルがダウンロードされるので、それをVestaですぐ表示できる。
 ゼロ点補正ができるが、私の理解では、これは同定せずに(指数を知らずに)、適当な回折ペア(00l, 002l, 003lなど)を探して計算しているので、複数相存在する場合や、ノイズがピークとして拾われている状態だと正しい結果は期待できない。使用に注意を要するが、上記のように検索がうまくいかない場合に、ゼロ点補正をしてから検索実行すると有効な場合があった。
 確定した相については、半定量分析ができる。実際、exampleで付いているデータは定量分析されているものなので(マニュアルに分析データの記載がある)、実際に試して、どの程度のものか比較できる。それほど合ってはいないが、半定量であると理解しよう。
 一度バックグラウンドを引いた後で、回折データを書き出すと、バックグラウンドを引いて、強度を100にノーマライズしたデータが出力される(オリジナル強度はなし)。なので、バックグラウンドを引く目的だけにも使えるようだ。
 予想以上にQualX2とPOW_CODが使えると感じたが、気になる部分はPOW_CODがどの程度の頻度でアップデートされるかである。これまでは、1年に2回程度の頻度で更新されているようである。

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あとがき

 このようなソフトの有用性はデータベースにある。POW_CODはこれまたフリーのCOD結晶構造データベースから作られているので、POW_CODを充実させるためには、まずCODを充実させることが必要である。CODへの結晶構造のデポジットの方法については、CODへデポジットに書いてます。
 なお、データがなくて検索がうまくいかない場合には、ご連絡ください。もし構造データが見つかれば、CODに登録しておきます。POW_CODの更新は年に1回程度なので、反映されるまで時間がかかります。