GIPAW出力の処理 の履歴(No.1)


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QE-GIPAW出力(NMR化学シフト)の処理

 Quantum EspressoのGIPAWコードを使って、NMR化学シフトやEFG(電場勾配)が計算できる(ESRのパラメータも)。普段それを利用して、化学シフトの予測計算を行っているが、席が数個だと出力からコピー&ペーストすれば済むが、最近は独立な席が数十個あるケースを計算しているので、化学シフト値を取り出すだけでもかなり大変。そこで、Pythonで簡単に化学シフト値のリストを取り出せるようにした。これは簡単な処理。
 実測スペクトルと比較する場合には、計算された化学シフト値にGaussian分布をかけて、スペクトルとして比較した方が分かりやすい。この部分の計算もPythonで書いてみた。結果はcsvファイルに出力する。計算時にFWHMを引数で指定できるようにした。これを使って、tridymiteの3つの多形の29Si MAS NMRスペクトルを予測してみた。プロット自体はPlot2 Proを使っている。横軸の化学シフトは出力そのままで、標準物質による補正をまだしていない。青い線で示した多形(PO-10)は独立なSi席が実に80もある。これの計算は18 core & 64 GB RAMのIntel i9 Linux PC(私物)で行ったが、gipawだけで1.5ヶ月かかった。

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化学シフトと局所構造の相関をみる

 29Si MAS NMRの場合は、化学シフトとSi原子周りの局所構造との相関がよく調べられている。そして経験的な関係式も多く発表されている。Quantum Espressoの構造最適化結果(一度VESTAで読めるようにして、xtlファイルで出力)を処理して、局所構造パラメータを計算するコードをPythonで作成した。それと上記の化学シフトを取り出したものを使って相関をみた。

tridymite-NMR-correlation.png

 この図は3つの相の相関を全てプロットしたもので、縦軸が化学シフト、横軸にSherriff and Grundy (Nature, 332, 819, 1988)の式4を使ったものである(上の図と色を一致させている)。これはSi-O-Si角、Si-Oの中点へのもう1つのSiからの距離などの局所構造パラメータから計算される。この式自体は一般のケイ酸塩鉱物に使えるのであるが、今回は対象がSiO2組成だけなので、式4のbond valenceの寄与は省略している(第2近接が全てSiなので寄与は全て同じ値になるので)。非常に良いリニアな相関が得られた。もっとも、より簡単なcos(Si-O-Si角)を横軸に使ってもかなり良い相関が得られる。今回の計算は実験との相関もよい。実はPO-10については、最初に行なった計算ではこの相関プロットがかなり変になった。そのため精度を上げて計算したところ(これに1.5ヶ月かかった)、直線的になり、他の相ともよい一致が得られた(青い点)。変な話だが、この経験的な相関が、第一原理計算の結果を保証してくれている。PO-10については第一原理計算の方をさらに精度を上げて(収束を)チェックするのは手元のPCではもう無理なので(それでも最近実はやっている)、相関の方から計算の正しさが検証できてよかった。
(図など最初のものから更新してます)