顕微ラマンでファイバー出力レーザーを使う
の履歴(No.1)
AND検索
OR検索
履歴一覧
差分
を表示
現在との差分
を表示
ソース
を表示
顕微ラマンでファイバー出力レーザーを使う
へ行く。
1 (2025-08-19 (火) 14:34:32)
2 (2025-08-19 (火) 14:34:32)
ファイバー出力レーザーを顕微ラマン分光の励起レーザーに使う場合に事前に考慮しておいた方がよい点をまとめました。
通常、空間出力とファイバー出力の2つのレーザーが入手可能ですが、私の経験からは可能なかぎり空間出力を使った方がいいです。ファイバー出力しか選択肢がないとか、予算的にファイバー出力しか買えない場合はファイバーコア径に注目して、なるべく小さいもの(出来れば10ミクロン以下)を選ぶ必要があります。
空間出力レーザーから出てくるレーザー光はよくコリメートされています。なのでそれを対物レンズで集光するとほぼ理論値のビームサイズになります。1ミクロン程度に難なく絞ることができます。 一方、ファイバー出力レーザーはファイバー端のコアからNA0.22程度で発散するビームが出てきます。そのためにラマンで使う場合はまず凸レンズでコリメートする必要があります。そして対物レンズで集光します。まずこのコリメートで問題が発生します。コリメートしたビームの径は使う対物レンズの後ろ側の開口部の直径(瞳径d)より小さくすべきでしょう。そうしないと大半の光はレンズを透過しません。そうなるとファイバーのNAとdからコリメートで使うレンズの焦点距離が決まります(dを超えないという条件)。
具体的に計算してみると、私が使っているミツトヨの対物レンズの場合、無限光学系で、結像レンズは標準で200 mmです。対物レンズにM Plan APOの10xを使うとすると。この対物レンズの焦点距離は20 mm(=200/10)になります。瞳径は11.2 mmです(実測)。ファイバー出力レーザーのコア直径は100ミクロンで、NAは典型的な0.22を仮定します(私の持っているソーラボの安い785 nmレーザーはほぼこの仕様)。コリメートしたビーム直径は大体2*NA*fになります。これが11.2 mmを超えないようにするには、コリメートレンズの焦点距離fは25.5 mm以下にする必要があります。私はソーラボの標準のケージシステムを光学系に使っているので、それがちょうど1インチまたは25 mm直径の光学パーツに対応しているので、コリメートレンズとしては1インチまたは25 mm直径でfが25 mmのものを使うことになります。この場合の試料位置でのビーム直径を計算してみます。この場合結局2つのレンズ(コリメートレンズと対物レンズ)でファイバーコアイメージを拡大または縮小していることになります。今のx10対物レンズの場合は100 micron * 20/25で、試料位置でのビーム直径は80ミクロンになります。多分、ほとんどの方には大きすぎるはずです。顕微ではないでしょう?
もしもっと縮小したい場合はfを25 mm以上にすることは可能ですが、その場合レーザー光の一部しかコリメートレンズを通らないことになり、レーザーパワーを有効に使えませんし、実際には数倍が限度です。
問題はこれだけではありません。x10対物レンズを使っているので、試料上のビームイメージは結像レンズの焦点で800ミクロンに拡大されます(x10なので)。通常これがモノクロメーターのスリット部分に結像される訳ですが、モノクロメーターのスリットは通常50から100ミクロンに絞る必要があります。これは検出器のサイズで多少変わりますが、冷却CCDの場合はこの程度、最近の天文用CMOSセンサーを使うなら1ピクセルが10ミクロン以下なので、さらに絞る必要があります。つまりここでも大半の光が捨てられることになります。もちろん縮小光学系を作ってやって、ビーム径を小さくしてからモノクロメーターに入れることは不可能ではないですが、ちょっと計算してみれば分かるように、光のロスをしないようにする場合は1/2程度が限度です。
またx100倍を使えば試料上では8ミクロンまで集光できますが(瞳径が2.2 mmになっているので4%の光しか対物レンズを透過しないことは無視して)、結像位置ではx100なのでやはり800ミクロンになってしまいます。倍率変えてもここの大きさは一定です。
なのでファイバー出力レーザーは顕微ラマン分光には向いてません。どうしても使う場合は(もし選択可能であれば)ファイバーコア径の小さいもの(10ミクロン以下)でNAも小さいものを選びます。また光のロスはどうしても避けられないので、レーザーパワーの大きなものを使う必要があります。ファイバーコア径が5ミクロン以下だと以上の問題はそれほど深刻にならないように思います(実際に試したことはないのですが)。
なお以上はレーザーの集光と試料拡大を同じ対物レンズを使うことを想定した場合です(後方散乱光学系)。斜めから対物レンズを通さずにレーザーを入射するような場合は話が違ってきますが、その場合でも大きく絞ることは困難でしょう。