解説2019-1
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解説2019-1
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1 (2024-03-10 (日) 09:40:36)
解説JMPS2019-1
†
M. Kanzaki, High-temperature Raman spectroscopic study of CO
2
-containing melanophlogite, J. Mineral. Petrol. Sci., 114, 122-129, 2019 (
https://doi.org/10.2465/jmps.180912
)の日本語解説
↑
序
†
メラノフロジャイトはSiO
2
組成のゼオライトの一種であり、かつ、包摂化合物でもある。結晶構造中にはM12とM14の2種のSiO
4
からなるカゴがあり、M12は5角12面体で、M14はM12にさらに2つ6面体を加えた多面体となる。このカゴの中にCH
4
, N
2
, CO
2
など小さい気体分子が入っていることが知られている。M14の方が体積が大きく、CO
2
については主にこちらに入っていると、X線構造解析から分かっている。著者は、CO
2
を含むメラノフロジャイト試料を測定している際に、低周波数領域に極めて強い、ブロードなバンドを見出した。それが何に起因するかを調べるために、熱処理実験と高温ラマンその場実験を行った。これは熱処理によりカゴ内のガスを追い払うことができることが知られているため、ガスがない状態を測定することで、低周波数のバンドが CO
2
起源かどうか判定できると考えた。さらに、高温その場実験で脱ガスの過程を調べることも行った。
↑
方法
†
試料はイタリアのFortunillo産のもので、結晶は1-2 mm直径の透明な球形をしている。熱処理実験では、結晶をそのまま、電気炉で設定した温度で適当な時間処理して、回収試料を室温でラマン測定した。高温その場ラマン測定には、このwikiでも紹介しているwire heaterを使った。単結晶を砕いて小さくした破片を室温から1100 ºCまで50 ºC毎に加熱して測定を行った。ラマン測定は、このwikiでも紹介している低周波数領域を測れる特殊なノッチフィルター等をつけた自作
顕微ラマン分光法
装置(488 nm)で行った。なお、メラノフロジャイトは室温では普通はtetragonalであり、文献によるとFortunillo産のものもtetragonalと報告されている。しかし、結晶を砕いて、粉末X線回折測定をおこなったところ、cubicであった。なぜ違いがあったのかは不明である。
なお、主にCO
2
を含むため、メタンを含むものと違い、加熱しても黒くはならない。
↑
結果と議論
†
室温で試料を測定したところ、低周波数領域に強いブロードなバンド、さらに高周波数領域に、CO
2
による伸縮振動ピーク(フェルミ共鳴により2本に分裂)を観察した。他のガス分子はほとんど見えないので、この試料は主にCO
2
を含むと考えられる。低周波数バンドに比べるとはるかに弱いが、メラノフロジャイト自体のラマンピークも見られて、これは過去の文献のスペクトルと一致した。950 ºCで6時間処理したところ、CO
2
による伸縮振動ピークは消えた。低周波数領域のバンドも強度を大幅に下げたために、このバンドはCO
2
によると考えた。より低温や加熱時間が短いと、CO
2
による伸縮振動ピークが弱く見られたが、そのピークが2つに分裂していることに気づいた(もともとフェルミ共鳴で2つに分裂しているが、その分裂している個々のピークがさらに分裂した)。他の研究と比較すると、メラノフロジャイトの安定上限温度(クリストバライトなどが生じる)は報告によりバラバラで、試料の不純物やガス組成にも依存するようである。
高温その場測定では、高温でCO
2
伸縮振動ピークと低周波数領域バンドの強度が下がることが観察された。定量的に見るために、CO
2
伸縮振動ピークをホットバンドも含め、積分した強度を求めた。定性的にCO
2
濃度に相当すると考えられる。温度に対してプロットした。低周波数領域バンドについてはピークのフィットが難しかったので、25 cm
-1
の強度を温度とともにプロットした。2つのプロットともに、450 ºCくらいから強度が下がり始めることを示しており、CO
2
の脱ガスが450 ºCから始まることを示している。この温度付近で試料に微小なクラックが入ることも観察しており、脱ガスと関係していると考えられる。1100 ºCでどちらの強度もゼロになったが、メラノフロジャイトのラマンピークがまだ観察された(回収した試料でも観察された)。
高温その場測定スペクトルを詳しく見ると、450 ºCからCO
2
伸縮振動ピークの分裂が始まっていることが分かった。ただ、スペクトルの質がよくなかったので、試料を600 ºC, 10分加熱して急冷したところ、CO
2
伸縮振動ピークが明瞭に分裂している、きれいなスペクトルを得ることができた。また、その試料を使って、高温その場観察すると、2つのピーク強度比が温度で変化することが観察された。含まれるガスの伸縮振動ピークが分裂することは、CH
4
, Hg
2
Sでは知られており、これは2つのカゴにこれらの分子が占めており、カゴの違いで振動数が異なるためと説明されている。そのため、CO2においても、最初のM14カゴにいたCO
2
が高温により、M12カゴにも拡散し、ピークが分裂したと考えた。ただ、この解釈では観察や過去の研究と矛盾するかもれない部分がいくつか残っており、さらに研究が必要である。もし、この解釈が正しいとなると、2つのカゴにおけるCO
2
の分布をラマン分光法で定量的に調べることができることになる。
低周波数領域バンドについては、他の研究などから、CO
2
分子のlibrational modeと推定した。カゴの中では CO
2
分子は自由には回転できず、このようなモードが生じると考えられる。また、他の研究によると、ガスを含むメラノフロジャイトは低温で比熱の異常を示すことが知られており、その原因として分子のlibrational modeによると提案されており、この考えと一致する。
本研究により、CO
2
を含むメラノフロジャイトにおいて、約450 ºCから CO
2
が拡散を始めて、脱ガスが始まることが分かった。また、ほぼ同時にCO
2
伸縮振動ピークが分裂を始め、これもCO
2
の拡散のためと考えられる。ラマン分光法はメラノフロジャイト(および他の包摂化合物)における、脱ガスのプロセスを調べるために有用であることが分かった。なお、低周波数バンドは伸縮振動ピークよりもはるかに強度が強いため、CO
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定量のためには低周波数バンドを使った方が有利だと思われる。
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謝辞
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この研究はJSPSからの科研費と大学からの運営費交付金を使って行われた。
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追記(論文公表後の情報)
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この論文ではCO
2
ラマンピークの「分裂」をM12, M14席にあるCO
2
分子の振動周波数の違いと解釈してますが、最近構造解析を行ったところ、この解釈は正しくないという結論が得られました。分裂のように見えたピークは、どうもマクロな空洞等に入っているCO
2
のようです。この新しい構造解析論文自体をもう直ぐ投稿します。
この論文が日本鉱物科学会の2020年論文賞に選ばれました。