自作偏光顕微鏡 の履歴(No.1)


偏光顕微鏡

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最新版は4Kに対応してます

偏光顕微鏡の自作

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 最近、展示室用の偏光顕微鏡を自作しました。もう使わない中古の偏光顕微鏡があればいいのですが、適当なものがなく、展示室用だと自動回転させて、同時に複数の方に万華鏡的なイメージを見せたいという願望があって、自作することにしました。元々光学部品はラマン分光法等を自作している関係で、ストック部品をかなり持っているので、それらを主に利用して、必要な部品だけ買い足すことで比較的簡単に作ることができました。問題は試料回転部分ですが、幸運なことにシグマ光機の中央に穴が開いている回転ステージの中古品を持っていたので、それを使って自動回転試料ステージを作りました。回転するには連続するパルスをモータードライバーに送ってやる必要がありますが、これにはArduinoを使いました。適当にパルスを連続的に出すだけなので、プログラムは簡単です。ドライバー基板とArduino基板はケースに入れてます。工作自体についてはちょっとした自作でも触れてます。

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 この偏光顕微鏡は透過型で、ファイバー光源からの光で試料を下側から照明をするようになってます。試料下側には偏光フィルターが1つ入ってます。オリンパスの5倍の対物レンズ(無限光学系)を使ってますが、結像レンズは焦点距離のf=50 mmのアクロマートレンズを使ってます。ここはオリンパス純正だとf=180 mmを使うのですが、顕微鏡全体を小さくすることとと、倍率を下げてなるべく広い視野を見せたいということで、焦点距離をわざと小さくしてます。なので、実際の倍率は1.4倍になります。これだと液晶画面に映る試料の横幅が約4 mmになります。対物レンズは交換可能で、倍率を上げることができます。対物レンズの上に2つ目の偏光フィルターが入ってます。偏光フィルターは回転するマウントに入っているので、クロスニコル、平行ニコルと切り替えが可能です。その上に結像レンズ、最後に4Kカメラで画像を撮ることができます。この4Kカメラは、HDMI出力があるので、HDMI入力のある液晶4KディスプレイにHDMIケーブルでつないで試料画像を出してます。予想以上に綺麗に見えて、メーカー製3眼顕微鏡+USB CCDカメラを使って、PC画面で見るよりも遥に良いです。下の写真に自作偏光顕微鏡の全体像を示してます。左側にあるケースは、回転ステージの制御装置です。モニターに映っているのは、唐津高島のマントルノジュール(かんらん岩)の薄片です。同じ試料で、試料ステージが回転している動画はこちら

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これは液晶画面をスマホで撮影したもので、実物はさらに綺麗です。

硝酸アンモニウム(硝安)の転移の観察

 硝酸アンモニウムは融点が約170度で、室温に冷却するまでに、立方晶、正方晶、直方晶I、直方晶IIへと転移していきます。硝酸アンモニウムは教育機関だと少量入手することは難しくないはずです。比較的低温度で、このような多彩な相転移を示す物質はそう多くはありません。私は自作ヒーターの温度校正に使う標準物質(融点)の1つとしてもよく利用しています。ホットプレートでスライドガラスを180度くらいまで加熱して、その上に硝酸アンモニウムを少し乗せて、カバーグラスをかけ、融かすことで、簡単にプレパラートを作ることができます。偏光顕微鏡で見るための岩石薄片を作るにはすごく時間がかかりますが、これだと干渉色の綺麗な「薄片」を簡単に作ることができます。室温まで冷やすと直方晶IIになり、複屈折があるので、2枚の偏光板に挟んでやるとカラフルな試料を観察することができます(見学等で実際に1人1つ作ってもらって、偏光板を渡して観察するようなことを行ったことがあります)。右の写真はそうしてとったものです。

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 室温での観察もいいのですが、この物質の場合は冷却過程を直接観察することが比較的簡単にできます。ホットプレートから熱いまま、すばやく偏光顕微鏡へプレパラートを持っていってやると、液相からの相転移を順次観察することができます。熱いのでピンセットなどを使ってください。特に直方晶相はカラフルなので、偏光顕微鏡観察に最適です。相転移では屈折率等が異なる相ができるので、それらを簡単に観察することができます。なお、液相から最初に結晶化するのは立方晶なので、クロスニコルだと分かりづらいかもしれません。クロス位置から偏光フィルターを少し回転させておくと見易くなります。
こういう試料では、温度勾配がついているはずなので、普通は試料のどこか片側から転移が始まり、視野を埋め尽くす状態が観察されます。転移が早すぎる場合には、スライドガラスを2枚重ねにするなど、冷却速度を遅くする工夫を行うといいと思います。
 相転移の動画を置いておきます(28 MBあります)。NH4NO3相転移動画リンク このビデオでは、最初にメルトから結晶化が7秒くらいで起こります。33秒くらいで、見づらいですが、左側で縞々が見えるようになります。これが多分、正方晶への転移だと思われます(あまり自信がない)。45秒くらいでカラフルな相(直方晶I)が成長するところが見えます。さらに1分7秒くらいで別の転移(直方晶IからII)が見られます。実はそのまましばらく待つともう1つ転移が見られます(ビデオにはない)。ただ、これだと過去の研究より、1つ相転移が多くなる(!)ので、先に正方晶と解釈したのがそうでないのかもしれません。温度を制御して観察すればいいのですが、ちょっと時間がなくてできてません。なお、過去の研究によると、含水量などで転移温度が変わったり、転移のいくつかがバイパスされたりするそうです。このページの一番上の写真は含水量が多かったのか、針状に結晶が成長しました。上の動画では全く異なった形の粒子が生じます。
 ちなみに、この動画はHDカメラの撮影機能を使っています。静止写真と動画を撮ることができます。画像はマイクロSDカードに保存されます。なお、ここに置いている画像は容量の関係で、本来の画像から解像度を下げてます。
 なお、硝酸アンモニウムは吸湿性があるので、そのまま放っておくと次の日には溶液状態になってしまいます。