白金菅への試料の封入法 の履歴(No.1)


白金菅への高圧実験試料の封入法 (2024/03/12作成)

 こちらの実験室で行っている白金菅への試料の封入方法を紹介します。

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必要なもの

手順(ピストンシリンダーとマルチアンビル用)

 まずは白金菅を必要な長さにカットします(試料高さ+溶接の糊代分x2)。普通ある程度まとめて作ります。カットには片刃カミソリを使ってますが、変形を防ぐために白金管の中に内径よりもちょっと小さいドリルビットを入れておきます。そしてカミソリで抑えながら、白金菅を回転してやるとカットできます。なるべく変形させないでおくと、後でまたカットする時に楽です。この時に生じた白金管の端から飛び出た部分は後で邪魔なのでニッパでカットしておきます。なお、その時に出たクズや後の作業で生じた白金クズは全て白金スクラップ用のビンに保存しておきます。右側の写真はカット後の白金菅と使ったドリルビット。
 買ったままの白金菅の内部はあまり綺麗でないし、アニールもされていないので、まずはアセトンにつけて超音波洗浄をします。そして、電気炉で1300度以上で1時間程度加熱します。適当な電気炉がない場合はガストーチで加熱でもいいと思います。

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 溶接用に白金菅の先端部分をプライヤーでクランプします。ピストンシリンダーやマルチアンビル実験の場合はここは三つ折りにします(右の写真)。HIPや水熱合成の実験だと1つ折りでも問題ありませんが、後で整形する場合は三つ折りが必須です(より変形が少なくて済むので)。なお、クランプする時に余計な白金菅の変形を防ぐために、ドリルビットを中に入れておき、ドリルビットの先端をクランプ部分からは少しずらせておきます。この位置をうまく調整しないとクランプした時にドリルビットの先端で白金が裂ける時があります。それを防ぐためにもドリルビットの先端は面取りしておきます。三つ折りなり1つ折りした時に両側の白金の高さが一致しない時は、ニッパでカットして揃えておくと溶接が楽です。

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 クランプした部分を溶接します。研究室では私の自作した溶接機を使ってます。溶接時には白金菅をクランプする必要がありますが、この時も変形を防ぐために、ドリルビットを白金菅の中に入れておきます。溶接機についてはこちら:https://mkanzaki.sakura.ne.jp/welder.htmlで紹介してます(かなり古い情報ですが)。左の写真は溶接後の写真で、この場合は3つ折りです。

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 ピストンシリンダーやマルチアンビル高圧実験ではあまり空洞を残したくないので、こちらの研究室では整形をしてます。そのためには上の写真に写っている真鍮のジグを使ってます(真鍮だと変形するのでステンレスで作った方がいいようです)。これには白金管よりも+0.2 mmくらい大きな穴があけてあります。白金菅をそこに丁寧に押し込みます。クランプした時に変形しているので、入りづらいですが、プライヤーで出っ張っているところを押さえながら、変形させながらやると入ります。この場合もドリルビットを中に入れておきます。それを金属板等の上に置いて、ドリルビットの先端をハンマーで叩いて、溶接した部分を整形します。右の写真は整形後の白金菅の先端部分です。白金菅をジグから取り出して、側面を実体顕微鏡で観察して、整形で穴などあいてないことを確認します。
 次に試料を白金菅に詰めますが、この時にはさっき使ったジグを使うと白金菅を立ておけるので便利です。溶接の糊代部分を残して試料詰めを終わります。糊代部分をどれだけ残すかは熟練度にもよりますので、最初は長めに残した方がいいと思います。きちんと詰めるために試料の上からドリルビットで押して、さらにはハンマーで叩くとより多くの試料が入ります。ピンバイスがあれば、それを使ってもいいと思います。スペースの少ないマルチアンビル実験ではよく詰めることが重要です。最後は糊代部分部分の内側についた試料をキムワイプ等で拭いて綺麗にします。ここに粉末など残っていると溶接がうまくいきません。そして前と同様に糊代部分をクランプしますが、今回は試料が入っているので慎重に行なって、中の粉末が糊代部分に上がってこないようにあまり下側までクランプしない方がいいです。もし白金菅が長すぎた場合は、クランプする部分を長くして、不要な部分をニッパでカットします。そして溶接を行います。

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 そして最後の整形を行います。先と同様にジグに白金菅を押し込みます。試料も入って膨らみ、さらに入れづらいですが、慎重にジグの穴に入れます。今回は先に使ったドリルビットではなく、ジグの穴にちょうど入るドリルビットを使います。それで白金菅を整形します。ハンマーで今度は前よりも強く叩いて整形します。最後、白金菅をジグから押し出すのにもハンマーが必要になります(そのためにジグの穴より大きな穴のあいた台か何かが必要)。右の写真は整形後の白金菅を示してます。これは3 mmの白金菅を使ったものです。
 整形した白金菅は実体顕微鏡で観察して、側面に亀裂などないことを確認します。また、直径と高さをノギスで測って、記録しておきます(必要なら重量も)。高さは他のパーツの長さ調整で必要になります。

水を入れる場合(ガス圧装置や水熱合成の時)

 HIP(ガス圧装置)や水熱合成では水を入れる実験も多いのですが、この場合は少し手順が違います。また、各手順で重さを測定して記録しておくことが必要です。
 HIP(ガス圧装置)や水熱合成では溶接時は1つ折りでいいでしょう。それでもドリルビットを中に入れてクランプした方が変形が少なくなります。片側を溶接したら、まず重さを記録します。
 水等液体を入れる場合は、シリンジを使って白金菅の底に注入します。ハンドリングはピンセットで行います。白金菅を立てた方がいいので、穴の空いた金属のジグを2つ作っておきます(1つはバランスで使う)。シリンジはハミルトン製がいいです。そして重さを記録して、必要分が入ったことを確認します。そして次に粉末試料を入れていきます。この場合は試料をドリルビットで押すわけにはいかないので、白金管の底をトントンと机の上で叩いて、なるべく試料が沢山入るようにします。時々重さを測って、必要な量が入るまで続けます。普通手早くやれば、この過程での水の蒸発は無視できます。
 溶接の糊代部分は上記の無水の場合よりはもっと長くとります。管の内側についた粉末はキムワイプなどで丁寧に取り除きます(その場合は再度重さを測る)。そして1つ折りでクランプします。溶接する時はできればこの1つ折りしている部分をクランプできるなら、そこの最下部でクランプします。糊代部分を長めにして、溶接を手早く行えば、白金菅の下側の温度が上がることはありません。しかし溶接で試料部分の温度が上がることを防ぎたい場合は、白金菅の下側に水を湿らせた綿やキムワイプで包みます。冷却用のスプレーを予めスプレーしておくこともやってます。ただ水の量がかなり多い場合は、冷却スプレーをスプレーした時に水が白金菅から吹き出すことがあります。溶接終わったらまた重さを測ります。溶接前の重さに差がないことを確認します。溶接時に少し融けた白金が飛び散ることがあるので、わずかな減少は起こります。
 きちんと溶接されたかどうか確認するには、封入した白金菅を100度ぐらいのオーブンに少し入れておいて重さの変化を調べることも普段行ってます。もしリークがあると重さが有意に減少します(最終的には水の重さ分だけ減少します)。
 問題なければ実験に使用します。実験後も重さを測って記録します。