光ピンセット の履歴(No.1)


Optical tweezers (sが必要) または光ピンセット (神崎 2005/05/11)

前書き

 今年(2018)のノーベル賞物理学部門の1つは光ピンセットの発明に対してでした。
 水中(別に水でなくてもよいが、粘性の低い液体)中の数ミクロン程度の透明な微粒子にレーザー光を対物レンズで絞って当てると、焦点(ビームウェスト)付近に微粒子が捕捉されます。微粒子の屈折率は液体より高い必要があります。これを光ピンセット(optical tweezers)と呼びます。この光学系にはマイクロラマン分光器やルビー蛍光法のものがそのまま使えます。マイクロラマンやDACをやっている人はすぐ遊べるわけです。ただレーザー出力はある程度高いものが必要です。

装置

 マイクロラマン分光装置については別項で紹介してます。それをそのまま利用しました。対物レンズはx10では厳しく、x50を使いました。原理から高倍率で絞るほど捕捉しやすくなるはずです。使ったレーザーはラマン用に使っている空冷Arイオンレーザーで488 nm, 20 mW-50 mWですが、レーザーラインフィルターとハーフミラー、また対物レンズでの反射等を考えると、試料にはもう少し弱いレーザーが当たっているはずです。試料はCCDカメラで観察できるようになってます。レーザー光をカットするためのフィルターがCCD前に入ってます。このフィルターではレーザー光は完全にはカットされないのでレーザー光自体もCCDモニター上で試料とともに観察できます。
 よくテストにポリスチレン粒子が使われるようですが,高価なので牛乳を水で薄めて試してみました。牛乳中の脂肪は数ミクロン程度のすこしいびつな球形をしているため、ちょうどいい感じです。これらの微粒子は水分子の衝突によるブラウン運動で、ふらふらと動いています。実際この光学系でやってみたところ、脂肪球を捕捉することが出来ました。手動でXYステージをゆっくりと動かすと粒子がレーザーとともに動くのが分かります(画面上ではレーザーと粒子は常に中央にあり,周囲が移動する)。これはやってみると結構感動します。成功させるには、試料フォーカスとレーザーのフォーカスをよく合わせるのがコツのようです。ずれているとうまく捕捉できないか、上下に粒子が移動すること(フォーカスがずれる)が観察されました。上下に動くときはフォーカスで追っかけてやると、どこかでトラップできるはずです。牛乳は安くていいのですが,放っておくと腐るので、5ミクロンのビーズを注文しました。ずっと後で撮った動画を置いておきます。これも牛乳の例。
 捕捉する力はストークス則から推定できます。水の粘性は分かっているので,ステージの速度を上げていって微粒子が捕捉できなくなる速度から力が計算できます。手動ステージなので正確な推定はかないませんが、0.1 pN (ピコニュートン)のオーダーでした。これを使えば液体の粘性の測定に使える可能性はあります。まあ重力(さらには遠心力)を利用してやはりストークス則を使っても推定が出来るので、どの程度有用かは分かりませんが、重力だと粒子と液体の密度差が粘性計算に出てきますが、それが必要ないところが1つ有利なポイントでしょうか。重力による粘性測定法と組み合わせると密度(実際は密度差)測定に使える可能性もあります。
 有機物だけでは面白くないので,5-10 micronのダイヤモンド粒子(デビアス製)をアルコール中に分散させて捕捉を試みました。アルコールが蒸発するためか(カバーガラスはしてあるのだが)、アルコール中に流れが生じて、捕捉が難しいため、流れのないガラス面近くにあるもので試しました。しかし一部は捕捉がかろうじて可能でしたが、それほどうまくいきません。多分ダイヤモンドがガラス面と相互作用しているためのようです。その上方で流れている(高さが違うのでフォーカスがずれている)ダイヤモンドを狙うと、フォーカスが合うようになって、ガラス面に移動することが観察されました。今度は水でやってみましょう。
 次は当然DAC内の水やメタノールーエタノール混合液中で捕捉が可能か興味があります。原理的になんら問題はないはずですが…暇があれば捕捉の動画も作りましょう。
 2005/06/10ころ:DAC中で少しやって見ました。水が媒体で圧力はかけていない状態。なぜか、5ミクロンのビーズはすぐダイヤ表面にくっついてしまい、一度付着するとレーザーによる捕捉は困難でした。手早くやるとまだ浮いているビーズがあって、それについてはレーザーによりフォーカスがずれる(押している)ことが観察されました。捕捉できる可能性は十分ありそう。